・・・経済、何のためにするや。人工を便利にして形体の平安を増すのみ。されば平安の主義は人生の達するところ、教育のとどまるところというも、はたして真実無妄なるを知るべし。 人あるいはいわく、天下泰平・家内安全をもって人生教育の極度とするときは、・・・ 福沢諭吉 「教育の目的」
・・・己は人工を弄んだために太陽をも死んだ目から見、物音をも死んだ耳から聴くようになったのだ。己は何日もはっきり意識してもいず、また丸で無意識でもいず、浅い楽小さい嘆に日を送って、己の生涯は丁度半分はまだ分らず、半分はもう分らなくなって、その奥の・・・ 著:ホーフマンスタールフーゴー・フォン 訳:森鴎外 「痴人と死と」
・・・又朝から夕方まで人工光線で生活するデパートの女売子などは、習慣的に自然色からひきはなされているのであるが、心理学的な調査ではそれは、どう現れて来るものであろうか。 音楽にしてもそうである。鉄工場に働いたり、あるいは酸素打鋲器をあつかって・・・ 宮本百合子 「芸術が必要とする科学」
・・・これは赤外線、紫外線を吸収して人工光線の下で仕事をするのに大変疲れないのだそうです。大奮発です。でも眼玉ですものね。そう云えば、私のこれを書いているテーブルの上には、馬の首のついた中学生じみた文鎮のわきに明視スタンドが立っているのです。その・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・赤坊が人工栄養だし、泰子がああだし、お母さんは本当に二人の子供の間でキリキリまいをして居ります。したがって私はどうしても家のことに手を出さずにはいられなく、そのため過労してパニックも生理的におこったのですが、よくよく考えて、もう余りつかれな・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・にしろ、女の肉体の老いと社会的野心或は金銭の慾のくみ合わせが、その本質の陳腐さにかかわらず、作者の興味をひくのだろうかと、人工的な照明の下にあやつられている「絶壁」の男女の姿を眺めたにすぎなかったと思う。ところが、不思議なことに、その作品の・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・ 合法的人工流産は、これ等数種の積極的条件の最後にあって、母性の擁護と秘密な罪悪の防止に役立てられている。 金髪のターニャひとりが、何か彼女の特別な理由で、このように広汎な社会連帯の上に、彼女の若き勤労婦人としての独立、恋愛の自由、・・・ 宮本百合子 「子供・子供・子供のモスクワ」
・・・ ジイドによれば、人工的に過度に生産その他を強化する必要からである。その必要が現実にあるとして、それならその必要はどこから生じているのであろうか。ジイドは、信じられぬ程の偏執で、その必要は、スターリンの犠牲であり、欺かれたもの達であ・・・ 宮本百合子 「こわれた鏡」
・・・左翼の運動は日本の資本主義社会の特殊な人工培養性に従って全く独得な歴史を持つものであるが、プロレタリア文学運動の消長もこの全体的な特徴に影響を受けている。客観的情勢が満州事件と同時に急転した。このことと団体に被った被害の甚大であったこと、他・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・いかにすれば珍しい変種ができるだろうかとか、いかにすれば予定の時日の間に注文通りの果実を結ぶだろうかとか、すべてがあまりに人工的である。 天を突こうとするような大きな願望は、いじけた根からは生まれるはずがない。 偉大なものに対する崇・・・ 和辻哲郎 「樹の根」
出典:青空文庫