・・・「爆発」になってしまう。言葉というものは全く調法なものであるがまた一方から考えると実にたよりないものである。「人殺し」「心中」などでも同様である。 しかし、火山の爆発だけは、今にもう少し火山に関する研究が進んだら爆発の型と等級の分類がで・・・ 寺田寅彦 「小爆発二件」
・・・そうかといって太平のシャンゼリゼーの大通りやボアの小道を散歩するのに、まさか弓矢や人殺し用の棍棒や台所用のパン棒を携えるわけにも行かないから、その代わりに何かしら手ごろな棒きれを持つことになったのではないかとも想像される。とにかく昔のシナで・・・ 寺田寅彦 「ステッキ」
・・・「日は暮れた」と背の高いのが云う。「昼の世界に顔は出せぬ」と一人が答える。「人殺しも多くしたが今日ほど寝覚の悪い事はまたとあるまい」と高き影が低い方を向く。「タペストリの裏で二人の話しを立ち聞きした時は、いっその事止めて帰ろうかと思うた」と・・・ 夏目漱石 「倫敦塔」
・・・実際今夜人殺しがあるというのだろうか。 私は、落ついたような調子で、少し笑いさえ浮べていった。「――騒ぎばかりひどいのじゃあないの?」「私も、おきみッ子が逃げて来てそういった時は、まさかと思いましたが、この子があなたそうっとのぞ・・・ 宮本百合子 「田舎風なヒューモレスク」
・・・共産党員は、永い抑圧の歴史の中で沢山の誹謗に耐えて来たのであったが、この事件に関係のあった当時の中央委員たちは、人間として最も耐えがたい、最も心情を傷められる誹謗を蒙った。人殺しとして扱われ、惨虐者として描き出され、法律は、法の無力を証明し・・・ 宮本百合子 「信義について」
・・・愚な只今までの誤り――名づけて経験と云うものでどうやら人殺しもせず泥棒もしないで生活して居ることが出来るほど大まかな頭で逃げてからあとの事を考えた。「自分の過去の歴史なんかは一寸もしらないものの中で根かぎり働く人にうまくとり入る。・・・ 宮本百合子 「どんづまり」
・・・「鉄道を破壊したり、人殺しを企てたりするのも本を読んだ男だ」 こういう家の大人共の態度によって、ゴーリキイは本というものに対し、一層重大な秘密な価値を感じるようになった。ゴーリキイは、教会の懺悔僧に「禁止の本は読まなかったかね」と訊・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・怪我人があったり、人殺しがあったりします」 まあそういうこともあるだろう、けれども、それは行列に立った労働者たちが自発的にやるメーデーの余興ではないのだ。反動団が暴れ込んでデモをぶちこわそうとすることから起る。それを、社会主義にかこつけ・・・ 宮本百合子 「ワルシャワのメーデー」
・・・ 庄兵衛はその場の様子を目のあたり見るような思いをして聞いていたが、これがはたして弟殺しというものだろうか、人殺しというものだろうかという疑いが、話を半分聞いた時から起こって来て、聞いてしまっても、その疑いを解くことができなかった。弟は・・・ 森鴎外 「高瀬舟」
・・・また人殺しの科はどうして犯したかと問えば、兄弟は西陣に雇われて、空引きということをしていたが、給料が少なくて暮らしが立ちかねた、そのうち同胞が自殺をはかったが、死に切れなかった、そこで同胞が所詮助からぬから殺してくれと頼むので殺してやったと・・・ 森鴎外 「高瀬舟縁起」
出典:青空文庫