・・・ただ道だけ聞けば、とのことでございましたけれども、おともが直接について悪ければ、垣根、裏口にでもひそみまして、内々守って進じようで……帳場が相談をしまして、その人選に当たりましたのが、この、ふつつかな私なんでございました。…… お支度が・・・ 泉鏡花 「眉かくしの霊」
・・・どちらがいいか悪いかは別問題であるが、昔の人選法も考えようによってはかえって合理的であるかもしれない。学風の新鮮を保ち沈滞を防ぐためにはやはりなるべく毛色のちがった人材を集めるほうがかえっていいかもしれないのである。同じことは他のあらゆる集・・・ 寺田寅彦 「相撲」
・・・そうして水練の上手な兵士を三十人選抜して、秋山大尉を捜させようと云うんだ。その人選のなかへ、私のとこの忰も入ったのさね。」 吉兵衛さんの顔が、紅く火照って来た。そして口にする間もない煙管を持ったまま、火鉢の前に立膝をしていた。鼻の下にす・・・ 徳田秋声 「躯」
・・・委員の人選も一種のあまくだりであったにしても、民主化について正直に発言し行動することのできる人々が選ばれたのであった。 ところが、さまざまの委員会が、民主化のための委員会として組織された当時、吉田茂は、占領政策に対して危惧をいだいていた・・・ 宮本百合子 「「委員会」のうつりかわり」
・・・ 河野密氏の例によれば、人選はある程度まで当ったろう。とにかく読者は、オヤ、この人がこんなことをやるのか、と思った。そこで、ジャーナリズムの目的は達せられたので、岩藤雪夫の小説「鍛冶場」が、どんなひどい階級的裏切りを示しているか、ダラ幹・・・ 宮本百合子 「こういう月評が欲しい」
・・・こんにち揺がない大出版企業の代表者たちが、文化上どのような性質をもつ存在であるかということは、渡米ラッシュの各界代表選出にさいして、出版界だけが人選にゆき悩んでいる実状に語られている。 一九四九年度の文学現象の特質は、このつくられた恐慌・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・もちろんそういう人だから、かかりつけの医者というのもよく人選をしたわけではなかった。素問や霊枢でも読むような医者を捜してきめていたのではなく、近所に住んでいて呼ぶのに面倒のない医者にかかっていたのだから、ろくな薬は飲ませてもらうことが出来な・・・ 森鴎外 「寒山拾得」
出典:青空文庫