・・・と降参人ながらいろいろな条件を提出する、仁恵なる監督官は余が衷情を憐んで「クラパム・コンモン」の傍人跡あまり繁からざる大道の横手馬乗場へと余を拉し去る、しかして後「さあここで乗って見たまえ」という、いよいよ降参人の降参人たる本領を発揮せざる・・・ 夏目漱石 「自転車日記」
・・・しかのみならず、この法外の輩が、たがいにその貧困を救助して仁恵を施し、その盗みたる銭物を分つに公平の義を主とし、その先輩の巨魁に仕えて礼をつくし、窃盗を働くに智術をきわめ、会同・離散の時刻に約を違えざる等、その局処についてこれをみれば、仁義・・・ 福沢諭吉 「教育の目的」
・・・勇気、仁恵、礼譲、真誠、忠義、克己、これすべてこの執着の現象である。ただ末世に至って真の精神を忘れ形式に拘泥して卑しむべき武士道を作った。吾人は豪快なる英雄信玄を愛し謙信を好む。白馬の連嶺は謙信の胸に雄荘を養い八つが岳、富士の霊容は信玄の胸・・・ 和辻哲郎 「霊的本能主義」
出典:青空文庫