○僕はこれからも今月のと同じような材料を使って創作するつもりである。あれを単なる歴史小説の仲間入をさせられてはたまらない。もちろん今のがたいしたものだとは思わないが。そのうちにもう少しどうにかできるだろう。○酒虫は材料を・・・ 芥川竜之介 「校正後に」
・・・由来子供は――殊に少女は二千年前の今月今日、ベツレヘムに生まれた赤児のように清浄無垢のものと信じられている。しかし彼の経験によれば、子供でも悪党のない訣ではない。それをことごとく神聖がるのは世界に遍満したセンティメンタリズムである。「お・・・ 芥川竜之介 「少年」
×すべて背景を用いない。宦官が二人話しながら出て来る。 ――今月も生み月になっている妃が六人いるのですからね。身重になっているのを勘定したら何十人いるかわかりませんよ。 ――それは皆、・・・ 芥川竜之介 「青年と死」
・・・――この老耄が生れまして、六十九年、この願望を起しましてから、四十一年目の今月今日。――たった今、その美しい奥方様が、通りがかりの乞食を呼んで、願掛は一つ、一ヶ条何なりとも叶えてやろうとおっしゃります。――未熟なれども、家業がら、仏も出せば・・・ 泉鏡花 「山吹」
・・・僕は来月は学校へ行くんだし、今月とて十五日しかないし、二人でしみじみ話の出来る様なことはこれから先はむずかしい。あわれッぽいこと云うようだけど、二人の中も今日だけかしらと思うのよ。ねイ民さん……」「そりゃア政夫さん、私は道々そればかり考・・・ 伊藤左千夫 「野菊の墓」
・・・如才はございますまいが、青木さんが、井筒屋の方を済ましてくれるまで、――今月の末には必らずその残りを渡すと言うんですから――この月一杯は大事な時でございます。お互いに、ね、向うへ感づかれないように――」と、僕と吉弥とを心配そうに見まわした様・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・「与助にはなんぼ程貸越しになっとるか?」と、主人は云った。「へい。」杜氏は重ねてお辞儀をした。「今月分はまるで貸しとったかも知れません。」 主人の顔は、少時、むずかしくなった。「今日限り、あいつにゃひまをやって呉れい!」「へ・・・ 黒島伝治 「砂糖泥棒」
・・・「今月はまだ出さなかったかねえ。」「とうさん、きょうは二日だよ。三月の二日だよ。」 それを聞いて、私は黒いメリンスを巻きつけた兵児帯の間から蝦蟇口を取り出した。その中にあった金を次郎に分け、ちょうどそこへ屋外からテニスの運動具を・・・ 島崎藤村 「嵐」
・・・ゆうべ、おれに、いつにないやさしい口調で、あなたも今月はずいぶん、お仕事をなさいましたし、気休めにどこか田舎へ遊びにいらっしゃい。お金も今月はどっさり余分にございます。あなたのお疲れのお顔を見ると、私までなんだか苦しくなります。この頃、私に・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・は、よかった。今月、「文学月報」に発表された短篇小説を拝見して、もう、どうしてもじっとして居られず、二十年間の、謂わば、まあ、秘めた思いを、骨折って、どもりどもり書き綴りました。失礼ではあっても、どうか、怒らないで下さい。私も既に四十ちかく・・・ 太宰治 「風の便り」
出典:青空文庫