・・・―― 要するに、今月の女優劇は決して成功の部類に属すべきものではないと云っても過言では無かろう。 見物の心に迫って来る俳優の技術は、只外部から磨をかけられた腕の冴えばかりではない。昔のように「型」できめて行くだけではなく、真個に我々・・・ 宮本百合子 「印象」
・・・「川窪はんで、今月の分にとお呉れやはったんや。 来月は、どうなるんやか私は知らん。「何故?「国に貸したものがあるさかい何の彼の世話やいてもろうとる、あの役場の馬場はんと一緒になって、幾分なりと入れさせる様にすれば、それか・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
・・・十時半頃起きた。今月は雨が多く、鬱陶しく壁の湿っぽいような日が続いたが、今日はまがうかたない六月の天気だ。爽やかで、初夏らしく暑い。暑く、外光の燦らかなのが心持よい。十七の女中と、閑静な昼食をたべた。――今頃、Yはどの辺だろう。汽車の中は今・・・ 宮本百合子 「木蔭の椽」
・・・十月一杯は一冊も本読まず、縫直しさわぎで暮れましたから。今月からは少し落着いて本が読んでもらえるだろうと嬉しゅう御座います。 十一月三日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より〕 十一月三日 三十一日附のお手紙今日頂きました・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・芝のおじさんが今月中にひっこすのですが書画骨董が多いのでその始末に閉口中。林町の父は、この頃ちょくちょく旅行に出かけ用事なのですが、正月には御木本真珠を見に山田へ行った話、まだ申しませんでしたね。御木本さんは元ウドンやだったそうで、その頃使・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ 私は今月の初めからずっときのうまで非常に忙しく沢山勉強もしたし、自身で堪能するだけ書くものにしろ深めたものを書いたので、読んでいただけないのがまことに残念です。そのためについ手紙がおそくなった次第です。体も疲れると心臓が苦しいので氷嚢・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・は物語ろうとしている。今月発表されたのは前篇であり、後篇での見とおしはつけ難いのであるが、この小説は、もっと主要な部分部分を、突っ込んで綿密に書かれたら、描かれている世界の現実感も深まり、意義ふかい、社会的な立体性も強く活かされたであろうと・・・ 宮本百合子 「十月の文芸時評」
某儀今年今月今日切腹して相果候事いかにも唐突の至にて、弥五右衛門奴老耄したるか、乱心したるかと申候者も可有之候えども、決して左様の事には無之候。某致仕候てより以来、当国船岡山の西麓に形ばかりなる草庵を営み罷在候えども、先主・・・ 森鴎外 「興津弥五右衛門の遺書(初稿)」
・・・石田が先月の通に勘定をしてみると、米がやっぱり六月と同じように多くいっている。今月は風炉敷包を持ち出す婆あさんはいなかったのである。石田は暫く考えてみたが、どうも春はお時婆あさんのような事をしそうにはない。そこで春を呼んで、米が少し余計にい・・・ 森鴎外 「鶏」
・・・お泊になってから少し立ちますと、今なら金があるからと仰ゃって、今月末までの勘定を済ませておしまいになった位でございます。」もう十一月に入っているから、F君は先月青年団から貰った金で前払をしたのである。 とにかく逢って見ようと思って、私は・・・ 森鴎外 「二人の友」
出典:青空文庫