・・・――こう云いながらも、媼はまたこれを、蘆刈りの男に話した。 話が伝わり伝わって、その村へ来ていた、乞食坊主の耳へはいった時、坊主は、貉の唄を歌う理由を、仔細らしく説明した。――仏説に転生輪廻と云う事がある。だから貉の魂も、もとは人間の魂・・・ 芥川竜之介 「貉」
・・・日蓮は自らをもって仏説に予言されている本化の上行菩薩たることを期し、「閻浮提第一の聖人」と自ら宣した。 日蓮のかような自負は、普遍妥当の科学的真理と、普通のモラルとしての謙遜というような視角からのみみれば、独断であり、傲慢であることをま・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・そうして一時は仏説などの因果の考えとは全く背馳する別物であるかのように見えたのが、近ごろはまた著しい転向を示して来て、むしろ昔の因果に逆もどりしそうな趨勢を示すようにも見られるのである。 要するに科学の基礎には広い意味における「物の見方・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・ 儒者が地獄極楽の仏説を証拠なきものなりとて排撃しながら、自家においては、数百年のその間、降雨の一理をだに推究したる者なし。雨は天より降るといい、あるいは雲凝りて雨となるというのみにして、蒸発の理と数とにいたりては、かつてその証拠を求む・・・ 福沢諭吉 「物理学の要用」
出典:青空文庫