・・・東京に居て他家へ行ったり来られたりしてすごす七草まで位の日は大変早く、目まぐるしいほどで立って行くけれ共、此処の一日は、時間にのび縮みはない筈ながら、ゆるゆると立って行く。 東京の急がしい渦が巻き来まれて、暇だとは云いながら一足門の外へ・・・ 宮本百合子 「農村」
・・・近所にやはり六十を越したひとりもののお婆さんがあって、その年よりは他家の使い歩きをしたり、物を運んだり、山へ行ってきのこをとって売ったりして、ひとりの生計を立てている。六十を越したからといって一合八勺の米ではその日がしのげないので、どうか一・・・ 宮本百合子 「私の感想」
・・・どこで聞いて来た。他家んとこへ来るなら来るで、ちゃんとして来い。」「そんなに大っきな声出さんでも、ええわして。」とお留は云った。「いいや、声ででも嚇しつけんと、こんな奴、何さらすかしれん。」「阿呆なこと云うてんと、置いといてやら・・・ 横光利一 「南北」
出典:青空文庫