・・・これほど労力を節減できる時代に生れてもその忝けなさが頭に応えなかったり、これほど娯楽の種類や範囲が拡大されても全くそのありがたみが分らなかったりする以上は苦痛の上に非常という字を附加しても好いかも知れません。これが開化の産んだ一大パラドック・・・ 夏目漱石 「現代日本の開化」
・・・「その上若い女に祟ると御負けを附加したんだ。さあ婆さん驚くまい事か、僕のうちに若い女があるとすれば近い内貰うはずの宇野の娘に相違ないと自分で見解を下して独りで心配しているのさ」「だって、まだ君の所へは来んのだろう」「来んうちから・・・ 夏目漱石 「琴のそら音」
・・・紫陽花が紫陽花らしいことに何の疑いもはさまれていず、紅梅が紅梅らしいのに特殊な観念化は附加されていない。それなりに評価されていて、紫陽花には珍しい色合いの花が咲けば、その現象を自然のままに見て、これはマア紫陽花に数少い色合であることよ、とい・・・ 宮本百合子 「新しい船出」
・・・まいだった検事団は、この日の公判廷では、へき頭、勝田主任検事が立って、公訴の適法であることを強調し「もしこの発言にかかわらず前回の如きことが行われる場合は、これに関し異議をのべ、必要な発言を行うことを附加するものである」といった。この日の午・・・ 宮本百合子 「それに偽りがないならば」
・・・ これを見た日本人は、恐らく、一言を付加せずにはいられない心持が致しましょう。 勿論、日本にもそんな無情な良人がないことはない。けれども、決して、一般の日本婦人の状態だとは云えない。寧ろ、そんなのは少数の例外で、多くは、良人は妻を扶・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
・・・ころを見失った文学の懐古的態度として現れたのであったが、時代の急激なテムポは、微温的な懐古調を、昨今は、花見る人の長刀的こわもてのものにし、古典文学で今日の文学を黙せしめようとするが如き不自然な性格を付加して来ているのである。 ・・・ 宮本百合子 「文学上の復古的提唱に対して」
・・・この徳永の解説にわれわれは少しばかりの、然し意味ある数行を附加しよう。レーニン主義・プロレタリア文学として今日に役立つ歴史小説として明治維新を書くための取材は広汎な範囲に可能であり、決して直接農民一揆をだけ取扱うことが、革命の前夜における日・・・ 宮本百合子 「文学に関する感想」
・・・と高田は附加して云った。「しかし、憲兵に来られちゃね。」「さァ、しかし、そこは句会ですから、何とかうまくやるでしょう。」 途中の間も、梶と高田は栖方が狂人か否かの疑問については、どちらからも触れなかった。それにしても、栖方を狂人・・・ 横光利一 「微笑」
・・・等の考え方についても、一言付加しておく必要を感ずる。岸田君が内なる美の直接に現わされたものを装飾とし、自然に触発せられて現わされたものを写実とする見方は、きわめて興味の深いものである。ことに写実の「実」について、自然の「事実」と「真実」とを・・・ 和辻哲郎 「『劉生画集及芸術観』について」
・・・ 吾人はさらに進んで一言付加したい事がある。日本の武士道は種々なる徳の形を取れどその根本は真義愛荘に啓示を得て物質を超越し霊的人生に執着するにある。勇気、仁恵、礼譲、真誠、忠義、克己、これすべてこの執着の現象である。ただ末世に至って真の・・・ 和辻哲郎 「霊的本能主義」
出典:青空文庫