・・・幼稚園は名高い回向院の隣の江東小学校の附属である。この幼稚園の庭の隅には大きい銀杏が一本あった。僕はいつもその落葉を拾い、本の中に挾んだのを覚えている。それからまたある円顔の女生徒が好きになったのも覚えている。ただいかにも不思議なのは今にな・・・ 芥川竜之介 「追憶」
・・・ままに、共有地の墓いまなお残りて、松の蔭の処々に数多く、春夏冬は人もこそ訪わね、盂蘭盆にはさすがに詣で来る縁者もあるを、いやが上に荒れ果てさして、霊地の跡を空しゅうせじとて、心ある市の者より、田畑少し附属して養いおく、山番の爺は顔丸く、色煤・・・ 泉鏡花 「清心庵」
・・・質入れをすると言っても、僕自身のはすでに大抵行っているのだから、目的は妻の衣服やその附属品であるので、足りないところは僕の父の家へ行って出してもらえと附け加えた。 妻はこうなるのを予想していたらしい。実は、僕、吉弥のお袋が来た時、早手ま・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・薄暗いランプの蔭に隠れて判然解らなかったが、ランプを置いた小汚ない本箱の外には装飾らしい装飾は一つもなく、粗末な卓子に附属する椅子さえなくして、本箱らしい黒塗の剥げた頃合の高さの箱が腰掛ともなりランプ台ともなるらしかった。美妙斎や紅葉の書斎・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
・・・ 二人の百姓は、町へ出て物を売った帰りと見えて、停車場に附属している料理店に坐り込んで祝盃を挙げている。 そこで女二人だけ黙って並んで歩き出した。女房の方が道案内をする。その道筋は軌道を越して野原の方へ這入り込む。この道は暗緑色の草・・・ 著:オイレンベルクヘルベルト 訳:森鴎外 「女の決闘」
・・・大多数が支配階級の附属たり、また擁護者たることを甘んずるとしても、芸術家が正義の感激から、被搾取階級のために、戦わずして止むべきかは、一にその人の良心に依ることです。 芸術に於て、プロレタリアの作家の出現は、すでに必然の真理とします。た・・・ 小川未明 「街を行くまゝに感ず」
・・・そのころ東成禁酒会の宣伝隊長は谷口という顔の四角い人でしたが、私は谷口さんに頼まれて時々演説会場で禁酒宣伝の紙芝居を実演したり、東成禁酒会附属少年禁酒会長という肩書をもらって、町の子供を相手に禁酒宣伝や貯金宣伝の紙芝居を見せたりしました。そ・・・ 織田作之助 「アド・バルーン」
・・・また、大学病院の建物も橋のたもとの附属建築物だけは、置き忘れられたようにうら淋しい。薄汚れている。入口の階段に患者が灰色にうずくまったりしている。そんなことが一層この橋の感じをしょんぼりさせているのだろう。川口界隈の煤煙にくすんだ空の色が、・・・ 織田作之助 「馬地獄」
・・・「然しビフテキに馬鈴薯は附属物だよ」と頬髭の紳士が得意らしく言った。「そうですとも! 理想は則ち実際の附属物なんだ! 馬鈴薯も全きり無いと困る、しかし馬鈴薯ばかりじゃア全く閉口する!」 と言って、上村はやや満足したらしく岡本の顔・・・ 国木田独歩 「牛肉と馬鈴薯」
・・・と呼びなされて、はては佐伯町附属の品物のように取扱われつ、街に遊ぶ子はこの童とともに育ちぬ。かくて彼が心は人々の知らぬ間に亡び、人々は彼と朝日照り炊煙棚引き親子あり夫婦あり兄弟あり朋友あり涙ある世界に同居せりと思える間、彼はいつしか無人の島・・・ 国木田独歩 「源おじ」
出典:青空文庫