・・・ それから二人で交る代る、熱心に打ち合った。銃の音は木精のように続いて鳴り渡った。そのうち女学生の方が先に逆せて来た。そして弾丸が始終高い所ばかりを飛ぶようになった。 女房も矢張り気がぼうっとして来て、なんでももう百発も打ったような・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・において、プドーフキンらのモンタージュ論の基礎的概念を批評し、これに代わるべき弁証法的モンタージュ論を提出し、のみならずこれに基づいた作品をこしらえようとした。しかし彼のこれらの試みはまた一派の人からは形式主義象徴主義に堕したものとして非難・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・ 時の逆行によって物の順序が逆になり原因と結果が入り代わるというだけではこの重大な変転の意義は説き尽くされない。 時が逆行しても本質的に変わらないものは、完全な週期的運動だけである。しかし、そんなものは実際の世界にはどこにもない。い・・・ 寺田寅彦 「映画の世界像」
・・・京都見物を一定時日の間に最も有効にしようというには適当な案内者あるいはこれに代るべき案内書があると便利である。そうでないと往々重要なものを見落す虞がある。近頃流行る高山旅行などではなおさらである。案内人なしにいい加減な道を歩いていると道に迷・・・ 寺田寅彦 「科学上における権威の価値と弊害」
・・・ニュートンの微粒子説は倒れたが、これに代るべき微粒子輻射は近代に生れ出た。破天荒と考えられる素量説のごときも二十世紀の特産物ではないようである。エピナスの古い考えはケルビン、タムソンの原子説を産んだ。デカルトの荒唐な仮説は渦動分子説の因をな・・・ 寺田寅彦 「科学上の骨董趣味と温故知新」
・・・従来の盲探しの手数のかかる方法に代わるに簡単で確実な合理的方法を考案してこれを実地に応用し良好の成績を収めた。現在我邦でおよそ汽船を造っている限りの工場で君の方法の行われていないところはないそうである。これと似た問題としては電気扇の振動や雑・・・ 寺田寅彦 「工学博士末広恭二君」
・・・女中などが代わると、どうかするとばかに大きいのや堅びねりのが交じったり、線香の先で火のついたのを引き落として背中をころがり落とさせたりして、そうしてこっちが驚いておこるとよけいにおもしろがってそうするのではないかという嫌疑さえ起こさせるので・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・聾唖者には音響の言語はないが、これに代わるべき動作の言語がちゃんと備わっているのである。 数学では最初に若干の公理前提を置いて、あとは論理に従って前提の中に含まれているものを分析し、分析したものを組み立ててゆくのであるが、われわれの言語・・・ 寺田寅彦 「数学と語学」
隅田川の両岸は、千住から永代の橋畔に至るまで、今はいずこも散策の興を催すには適しなくなった。やむことをえず、わたくしはこれに代るところを荒川放水路の堤に求めて、折々杖を曳くのである。 荒川放水路は明治四十三年の八月、都下に未曾有の・・・ 永井荷風 「放水路」
・・・学校騒動があってその学校の校長さんが代る。この学校ではありませんよ。そうすると後に新しい校長さんが来ましょう。そうしてその学校騒動を鎮めに掛る。その時は色々思案もやりましょう計画も要りましょう。刷新も色々ありましょう。そうして旨く往けばあの・・・ 夏目漱石 「模倣と独立」
出典:青空文庫