生活上のある必要から、近い田舎の淋しい処に小さな隠れ家を設けた。大方は休日などの朝出かけて行って、夕方はもう東京の家へ帰って来る事にしてある。しかしどうかすると一晩くらいそこで泊るような必要が起るかもしれな・・・ 寺田寅彦 「石油ランプ」
・・・ 酒も煙草も甘いものもいっさいの官能的享楽を顧みなかった先生は、謡曲でも西洋音楽でも決してそれがただの享楽のためではなくて、やることが善いことだからやるのだというように見えた。休日に近郊などへ散歩に出かけられるのでも、やはり同様な見地か・・・ 寺田寅彦 「田丸先生の追憶」
・・・その際、おりおり出漁の休日があっても、また魚の数え損じがあってもさしつかえはない。すべての関係量に関してただそれぞれに一定の「平均」というものが存在しさえすればよいのである。 銀座通りの両側の歩道を歩く人の細かな観察の結果からして、一つ・・・ 寺田寅彦 「物質群として見た動物群」
・・・ その後ある休日の午後、第Xシンフォニーの放送があったとき、銀座のある喫茶店へはいってみた。やはりだめであった。すべての楽器はただ一色の雑音の塊になって、表を走る電車の響きと対抗しているばかりである。でも曲の体裁を知るためと思って我慢し・・・ 寺田寅彦 「路傍の草」
・・・花盛りの休日、向島の雑鬧は思いやられるので、母の上は考えて見ると心配にならんでもなかったが、夕刻には恙なく帰られたので、予は嬉しくて堪らなかった。たらちねの花見の留守や時計見る 内の者の遊山も二年越しに出来たので、予に取っても病苦の・・・ 正岡子規 「病牀苦語」
・・・良人であり父親であるこれらの官吏たちが、わが妻、わが子をつれてたまの休日にいざ団欒的外出と思うとき、第一、そのつつましいたのしさをうちこわすものは何だろうか。交通地獄の恐怖である。検事局と書いた木札を胸にかけて、乗ろうとする粗暴な群集を整理・・・ 宮本百合子 「石を投ぐるもの」
・・・ 彼等は街道を右にそれ、もう実をもいだ後の蜜柑畑の間を抜けたり、汽車の線路を歩いたりして宿に入った。休日であったから、家々の子供等が皆往来で遊んでいる。そういう一群の子供達の横を通る時、晴子は極り悪そうな真面目な顔をした。宿には洋服の子・・・ 宮本百合子 「海浜一日」
・・・ 小曲 小さな男の児が 大きい椅子の根っこで じぶくっている 父親は遂に夕飯に帰れず となりの子供たちは みんな出払っている休日の夜。 男の児はじぶくっている「お父ちゃまとお風呂に入りた・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ 最近の二年間に多くの自立劇団、美術、音楽、詩、小説、科学のグループをもちはじめた日本の労働組合員は、彼らの休日の大きい楽しみである映画が、輸入ものかさもなければ愚劣な日本ものしかなくなるということについて、重大な関心を示している。映画・・・ 宮本百合子 「今日の日本の文化問題」
・・・こんな不経済をやめて、交代に五日目ごとに一日の休日をとって本当にプロレタリアートの、記念日だけ休んで働くことにした。 ――わかった。それで例えばこの赤ボッチが、また五日目についてるわけだな。間四日が働く日か。成程順ぐり緑や黄色がやっぱり・・・ 宮本百合子 「正月とソヴェト勤労婦人」
出典:青空文庫