・・・自分の級に英語を教えていた、安達先生と云う若い教師が、インフルエンザから来た急性肺炎で冬期休業の間に物故してしまった。それが余り突然だったので、適当な後任を物色する余裕がなかったからの窮策であろう。自分の中学は、当時ある私立中学で英語の教師・・・ 芥川竜之介 「毛利先生」
・・・いやしくも父兄が信頼して、子弟の教育を委ねる学校の分として、婦、小児や、茱萸ぐらいの事で、臨時休業は沙汰の限りだ。 私一人の間抜で済まん。 第一そような迷信は、任として、私等が破って棄ててやらなけりゃならんのだろう。そうかッてな、も・・・ 泉鏡花 「朱日記」
・・・そういう始末でようやく年もくれ冬期休業になった。 僕が十二月二十五日の午前に帰って見ると、庭一面に籾を干してあって、母は前の縁側に蒲団を敷いて日向ぼっこをしていた。近頃はよほど体の工合もよい。今日は兄夫婦と男とお増とは山へ落葉をはきに行・・・ 伊藤左千夫 「野菊の墓」
・・・ この某町から我村落まで七里、もし車道をゆけば十三里の大迂廻になるので我々は中学校の寄宿舎から村落に帰る時、決して車に乗らず、夏と冬の定期休業ごとに必ず、この七里の途を草鞋がけで歩いたものである。 七里の途はただ山ばかり、坂あり、谷・・・ 国木田独歩 「画の悲み」
・・・――まだ、まだ、言いたいことがあるのですけれども、私の不文が貴下をして誤解させるのを恐れるのと、明日又かせがなければならぬ身の時間の都合で、今はこれをやめて雨天休業の時にでもゆっくり言わせて貰います。なお、秋田さんの話は深沼家から聞きました・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・ 二人で出て、かねて私の馴染のおでんやに行き、亭主に二階の静かな部屋を貸してもらうように頼んだが、あいにくその日は六月の一日で、その日から料理屋が全部、自粛休業とかをする事になっているのだそうで、どうもお座敷を貸すのはまずい、という亭主・・・ 太宰治 「フォスフォレッスセンス」
・・・化する事も無く、そのうちに君は、卒業と同時に仙台の部隊に入営して、岡野がいなくては、いかに大石、智略にたけたりとも、もはや菊屋から酒を引出す口実に窮し、またじっさい菊屋に於いても、酒が次第に少くなって休業の日が続き、僕は、またまた別な酒の店・・・ 太宰治 「未帰還の友に」
・・・翌日この劇場前を通ったら、なるほど、すべての入り口が閉鎖され平生のにぎやかな粧飾が全部取り払われて、そうして中央の入り口の前に「場内改築並びに整理のために臨時休業」という立て札が立っている。 近傍一帯が急にさびれて見えた。隣の東京朝日新・・・ 寺田寅彦 「藤棚の陰から」
・・・ では、例えばソヴェトじゅうの工場と役所とが日曜日だというと一斉に休業して、用のある者はしまったガラス戸越しに机と電話、磨かれた機械は見るが、そこで呼びかけるべき人間の影も無いという状態は、果して能率増進的であろうか? 心理学の実験は、人間・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・しかし今回のように全日本的規模において学問の自主性のために休業が行われたことはなかった。この現象はこんにちの社会生活のあらゆる面で、さほど進歩的でない学生にさえも、民主的な民族自主の必要がどのように切実に実感されているかという事実を語ってい・・・ 宮本百合子 「今日の日本の文化問題」
出典:青空文庫