・・・ドイツの学者のアルバイテンという言葉の意味がここに一年半通って同学者のやり方を見聞している間に自ずから会得出来たような気がした。一に根気二に根気で集輯した素材を煉瓦のように積んで行くのである。 探険家シャックルトンがベルリンへ来たときペ・・・ 寺田寅彦 「ベルリン大学(1909-1910)」
・・・吾々は彼の生涯の記録と彼の全集とを左右に置いて較べて見るときに、始めて彼の真面目が明らかになると同時に、また彼のすべての仕事の必然性が会得されるような気がする。科学の成果は箇々の科学者の個性を超越する。しかし一人の科学者の仕事が如何にその人・・・ 寺田寅彦 「レーリー卿(Lord Rayleigh)」
・・・ そこで上官の方にもお目にかかって、忰の死んだ始末も会得の行くように詳しくお話し下すったんですよ。その時お目にかかって、弔みを云って下さったのが、先ず連隊長、大隊長、中隊長、小隊長と、こう皆さんが夫々叮嚀な御挨拶をなすって下さる。それで・・・ 徳田秋声 「躯」
・・・言わば余裕頗る綽々としたそういう幸福な遭難者には、浅草で死んだ人たちの最期は話して聞かされても、はっきり会得することができない位である。しかし事実は事実として受取らなければならない。その夜を限りその姿形が、生残った人たちの目から消え去ったま・・・ 永井荷風 「草紅葉」
・・・なおそれのみに止まらず、紅雨は門と玉垣によって作られた二段三段の区劃を眺めてメエテルリンクやレニエエなどが宮殿の数ある柱や扉によって用いたような象徴芸術の真髄を会得したようにも感じた。」 実際この二世紀以前の建築は自分に対して明治と・・・ 永井荷風 「霊廟」
・・・と一々明細に説明してやって、例えば東京市の地図が牛込区とか小石川区とか何区とかハッキリ分ってるように、職業の分化発展の意味も区域も盛衰も一目の下に暸然会得できるような仕かけにして、そうして自分の好きな所へ飛び込ましたらまことに便利じゃないか・・・ 夏目漱石 「道楽と職業」
・・・ありのままの本当をありのままに書く正直という美徳があればそれが自然と芸術的になり、その芸術的の筆がまた自然善い感化を人に与えるのは前段の分解的記述によってもう御会得になった事と思います。自然主義に道義の分子があるという事はあまり人の口にしな・・・ 夏目漱石 「文芸と道徳」
・・・またそうした手数を尽さないでも、私の本意が充分ご会得になったなら、私の満足はこれに越した事はありません。あまり時間が長くなりますからこれでご免を蒙ります。 夏目漱石 「私の個人主義」
・・・そして感情するためには、ニイチェの言葉の中から、すべての省略された意味、即ち彼の慣用する音楽術語で言ふ Con motoの部分を、自分で直感的に会得せねばならない。そして此処に、彼の理解への最も困難な鍵がある。たしかに人の言ふ如く、カントの・・・ 萩原朔太郎 「ニイチェに就いての雑感」
・・・ツルゲーネフはツルゲーネフ、ゴルキーはゴルキーと、各別にその詩想を会得して、厳しく云えば、行住座臥、心身を原作者の儘にして、忠実に其の詩想を移す位でなければならぬ。是れ実に翻訳における根本的必要条件である。 今、実例をツルゲーネフに取っ・・・ 二葉亭四迷 「余が翻訳の標準」
出典:青空文庫