・・・宣教師は巧みにクリスト教の伝道へ移るのに違いない。コオランと共に剣を執ったマホメット教の伝道はまだしも剣を執った所に人間同士の尊敬なり情熱なりを示している。が、クリスト教の伝道は全然相手を尊重しない。あたかも隣りに店を出した洋服屋の存在を教・・・ 芥川竜之介 「少年」
・・・そこで、休所の方をのぞくと、宮崎虎之助氏が、椅子の上へのって、伝道演説をやっていた。僕はちょいと不快になった。が、あまり宮崎虎之助らしいので、それ以上には腹もたたなかった。接待係の人が止めたが、やめないらしい。やっぱり右手で盛なジェステュア・・・ 芥川竜之介 「葬儀記」
・・・時にパウロ公義と樽節と来らんとする審判とを論ぜしかばペリクス懼れて答えけるは汝姑く退け、我れ便時を得ば再び汝を召さん、とある、而して今時の説教師、其新神学者高等批評家、其政治的監督牧師伝道師等に無き者は方伯等を懼れしむるに足・・・ 内村鑑三 「聖書の読方」
・・・「そしてやたらに北海道の話を聞いて歩いたもんだ。伝道師の中に北海道へ往って来たという者があると直ぐ話を聴きに出掛けましたよ。ところが又先方は甘いことを話して聞かすんです。やれ自然がどうだの、石狩川は洋々とした流れだの、見渡すかぎり森又た・・・ 国木田独歩 「牛肉と馬鈴薯」
・・・ 清澄山を追われた日蓮は、まず報恩の初めと、父母を法華経に帰せしめて、父を妙日、母を妙蓮と法号を付し、いよいよかねて志す鎌倉へと伝道へと伝道の途に上った。 四 時と法の相応 日蓮の行動の予言者なる性格はそのと・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・三十六歳のとき、本師キレイメンス十二世からヤアパンニアに伝道するよう言いつけられた。西暦一千七百年のことである。 シロオテは、まず日本の風俗と言葉とを勉強した。この勉強に三年かかったのである。ヒイタサントオルムという日本の風俗を記した小・・・ 太宰治 「地球図」
・・・ドン、ドン……段々近づいて来るのをきくと、それはキリスト教の伝道であった。益々早く太鼓をうち、何とかして、 信ずるものは誰れェも みィな救ゥくわるゥ 急に止って歌をやめ、「みなさァん」 声のわれた、卑俗な調子で短い演・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・一、恢復して伝道、〔欄外に〕Leading passion for Utari. 周囲の人 母 好人物 ドメスティック 弟 山雄 富次郎 バチェラー一族 姉 浪花節語り ・・・ 宮本百合子 「一九二五年より一九二七年一月まで」
・・・長崎に切支丹伝道が始って間もなく建った、とーどのさんた寺の跡だという春徳寺や、怪談の絡まる切支丹井戸の在る本蓮寺などへ行って見る予定を変え、悠くり家居することにした。宿の高い欄干から外を眺めると、雨にけむる湾内の景色が見渡せる。眼下は、どこ・・・ 宮本百合子 「長崎の印象」
・・・救世軍の伝道者のように辻に立って叫ぶか。馬鹿な。己は幼穉だ。己にはなんの修養もない。己はあの床の間の前にすわって、愉快に酒を飲んでいる。真率な、無邪気な、そして公々然とその愛するところのものを愛し、知行一致の境界に住している人には、はるかに・・・ 森鴎外 「余興」
出典:青空文庫