・・・ 諸君はラサールとハッツフェルド伯爵夫人との関係を知らずしてラサールを識ることは出来ぬ。」と―― 成程、われわれは、帝政時代のロシア貴族階級が生んだ国際的な作家の一人である伯爵イン・ツルゲーネフの生涯を語るには、彼の娘を生んですてられた・・・ 宮本百合子 「ツルゲーネフの生きかた」
・・・貴族の陪審員として、偶然、その日の公判に臨席していたネフリュードフが、シベリア流刑を宣告されたそのカチューシャという売笑婦こそ、むかし若かった自分が無責任にもてあそんだ伯爵家の小間使いであったことを発見する。そして、道徳的責任にたえがたくめ・・・ 宮本百合子 「動物愛護デー」
・・・この四ヵ月にわたるロオマとネエプルの旅の間で、マリアの第二の愛情の対象となった伯爵アントネリオの息子ピエトロと相識った。ピエトロはマリアに魅せられ、マリアもつよく彼にひきつけられて、この一八七六年の日記は、寸刻もじっとしていない若々しい激情・・・ 宮本百合子 「マリア・バシュキルツェフの日記」
・・・エゴーの分析 リアリズム 古き十八世紀風なもの 社会的場面の描写 特にサロン スタンダールの帝政時代観 p.28 リュシアンの入った第三師団管轄区の査閲を拝命した伯爵N中将について。p.29 N伯・・・ 宮本百合子 「「緑の騎士」ノート」
・・・ 往来に面した掲示板に今日は成人教育プログラムともう一つの紙が貼られている。伯爵某々が下賜された土地小住宅とともに十五年年賦で分譲する。希望者は事務所へ照会せよ。 ホワイト・チャペル通の交叉点を過ると、街の相貌がだんだん違って来・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
・・・Strindberg は伯爵家の令嬢が父の部屋附の家来に身を任せる処を書いて、平民主義の貴族主義に打ち勝つ意を寓した。これまでもストリンドベルクは本物の気違になりはすまいかと云われたことが度々あるが、頃日また少し怪しくなり掛かっている。いず・・・ 森鴎外 「沈黙の塔」
・・・このようなところから考えても、ドストエフスキイが伯爵であるトルストイの作を評して、庶民というものをトルストイは知っていないと片づけたのも、トルストイにとっては致命的な痛さだったにちがいない。貴族のことを好んで書いたバルザックも誰か無名の貴族・・・ 横光利一 「作家の生活」
出典:青空文庫