・・・ 花房に黙って顔を見られて、佐藤は機嫌を伺うように、小声で云った。「なんでございましょう」「腫瘍は腫瘍だが、生理的腫瘍だ」「生理的腫瘍」 と、無意味に繰り返して、佐藤は呆れたような顔をしている。 花房は聴診器を佐藤の・・・ 森鴎外 「カズイスチカ」
・・・それまでに願書を受理しようとも、すまいとも、同役に相談し、上役に伺うこともできる。またよしやその間に情偽があるとしても、相当の手続きをさせるうちには、それを探ることもできよう。とにかく子供を帰そうと、佐佐は考えた。 そこで与力にはこう言・・・ 森鴎外 「最後の一句」
・・・そしてさきへ筑紫の方へ往って、お父うさまにお目にかかって、どうしたらいいか伺うのだね。それから佐渡へお母さまのお迎えに往くがいいわ」三郎が立聞きをしたのは、あいにくこの安寿の詞であった。 三郎は弓矢を持って、つと小屋のうちにはいった。・・・ 森鴎外 「山椒大夫」
・・・機嫌を伺うように云うのである。「それは誰ですか。フランス人ですか。」「いいえ。日本人です。L'Institut Pasteur で為事をしている学生ですが、先生の所へ呼ばれたということを花子に聞いて、望んで通訳をしに来たのです。」・・・ 森鴎外 「花子」
・・・「さア、それは大変なものらしいのですが、二三日したらお宅へ本人が伺うといってましたから、そのときでも訊いて下さい。」「何んだろう。噂の原子爆弾というやつかな。」「そうでもないらしいです。何んでも、凄い光線らしい話でしたよ。よく私・・・ 横光利一 「微笑」
出典:青空文庫