・・・ちょうど可い口があって住込みましたのが、唯今居りまする、ついこの先のお邸で、お米は小間使をして、それから手が利きますので、お針もしておりますのでございますよ。」「誰の邸だね。」「はい、沢井さんといって旦那様は台湾のお役人だそうで、始・・・ 泉鏡花 「政談十二社」
・・・だったのでございますが、道楽気が強い、というのでございましょうか、田舎のお百姓を相手のケチな商売にもいや気がさして、かれこれ二十年前、この女房を連れて東京へ出て来まして、浅草の、或る料理屋に夫婦ともに住込みの奉公をはじめまして、まあ人並に浮・・・ 太宰治 「ヴィヨンの妻」
・・・てるは、千住の蕎麦屋に住込みで奉公する事になった。千住に二年つとめて、それから月島のミルクホールに少しいて、さらに上野の米久に移り住んだ。ここに三年いたのである。わずかなお給金の中から、二円でも三円でも毎月かかさず親元へ仕送りをつづけた。十・・・ 太宰治 「古典風」
・・・あれを見ると、例えば、家政婦に住み込みたいとか、家政婦を求めるとか、というようなことが、何か知ら曖昧な、いろいろの世相が、これにも感じられ味わわれるような気がして、わたくしには面白い。広告欄はたいして注意しませんが、でもブック・レビューなど・・・ 宮本百合子 「身辺打明けの記」
・・・ 手が癒ると、今度は製図工見習にやられたが、住込みの見習小僧の生活はここでも前同様であった。主人は少年の彼を女中代り、下男代りにこき使い、おまけに二人の炊事女がこれ又自分達の下働きとして追い廻す。ゴーリキイは後年当時を回想してこう書いて・・・ 宮本百合子 「逝けるマクシム・ゴーリキイ」
出典:青空文庫