一、佐藤春夫は詩人なり、何よりも先に詩人なり。或は誰よりも先にと云えるかも知れず。 二、されば作品の特色もその詩的なる点にあり。詩を求めずして佐藤の作品を読むものは、猶南瓜を食わんとして蒟蒻を買うが如し。到底満足を得る・・・ 芥川竜之介 「佐藤春夫氏の事」
・・・ 仁右衛門の小屋から一町ほど離れて、K村から倶知安に通う道路添いに、佐藤与十という小作人の小屋があった。与十という男は小柄で顔色も青く、何年たっても齢をとらないで、働きも甲斐なそうに見えたが、子供の多い事だけは農場・・・ 有島武郎 「カインの末裔」
・・・ これ、佐藤継信忠信兄弟の妻、二人都にて討死せしのち、その母の泣悲しむがいとしさに、我が夫の姿をまなび、老いたる人を慰めたる、優しき心をあわれがりて時の人木像に彫みしものなりという。この物語を聞き、この像を拝するにそぞろに落・・・ 泉鏡花 「一景話題」
・・・そのつぎに、さされたのは、佐藤でありました。佐藤が、立ちあがると、みんなは、どんなことをいうだろうかと、彼の顔を見守っていました。「僕も、やはり竹内くんと同じのであります。いおうと思ったことを、竹内くんがみんな話してくれました。」 ・・・ 小川未明 「笑わなかった少年」
・・・ 追分は軽井沢、沓掛とともに浅間根腰の三宿といわれ、いまは焼けてしまったが、ここの油屋は昔の宿場の本陣そのままの姿を残し、堀辰雄氏、室生犀星氏、佐藤春夫氏その他多くの作家が好んでこの油屋へ泊りに来て、ことに堀辰雄氏などは一年中の大半をこ・・・ 織田作之助 「秋の暈」
・・・ やがて涙を拭いて、封筒の裏を見ると、佐藤正助とある。思いがけず男の人からの手紙であった。道子は何か胸が騒いだ。 道子が姉のもとへ帰ってから、もう半年以上にもなるが、つひぞ音が黄昏の中に消えて行くのを聴いていた。 一刻ごとに暗さ・・・ 織田作之助 「旅への誘い」
・・・「あのね、谷崎潤一郎がね、僕の青ヶ島を賞めていたそうだ。佐藤さんがそう云ってた。」「うれしいですか。」「うん。」 私には不満だった。 第三巻 この巻には、井伏さんの所謂円熟の、悠々たる筆致の作品三つを・・・ 太宰治 「『井伏鱒二選集』後記」
・・・それに、このごろ、涙もろくなってしまって、どうしたのでしょう、地平のこと、佐藤さんのこと、佐藤さんの奥様のこと、井伏さんのこと、井伏さんの奥さんのこと、家人の叔父吉沢さんのこと、飛島さんのこと、檀君のこと、山岸外史の愛情、順々にお知らせしよ・・・ 太宰治 「喝采」
・・・いつでもお相手するが、しかし、君は、佐藤春夫ほどのこともない。僕は、あの男のためには春夫論を書いた。けれども、君に対しては、常に僕の姿を出して語らなければ場面にならないのだ。君は、長沢伝六と同じように――むろん、あれほどひどくはないが、けれ・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・ 帰って暫くすると、早大の佐藤さんが、こんど卒業と同時に入営と決定したそうで、その挨拶においでになったが、生憎、主人がいないのでお気の毒だった。お大事に、と私は心の底からのお辞儀をした。佐藤さんが帰られてから、すぐ、帝大の堤さんも見えら・・・ 太宰治 「十二月八日」
出典:青空文庫