・・・既に事変下で、新体制運動が行われていたある日の新聞を見ると、政府は国民の頭髪の型を新体制型と称する何種類かの型に限定しようとしているらしく、全国の理髪店はそれらの型に該当しない頭髪の客を断ることを申し合わせたというのである。 私はことの・・・ 織田作之助 「髪」
・・・ロマンチシズム、新体制、そんな事を戸石君は無邪気に質問したのではなかったかしら。その夜は、おもに私と戸石君と二人で話し合ったような形になって、三田君は傍で、微笑んで聞いていたが、時々かすかに首肯き、その首肯き方が、私の話のたいへん大事な箇所・・・ 太宰治 「散華」
・・・しかし、資本主義の社会体制が保たれることで特権をもってゆける支配階級の人々は、あらゆる手段をつくして新しい社会体制の発展を遅らせようと努力していますし、あからさまに人民大衆を犠牲にして、社会的混乱を拡大し、深め、その間に新しい歴史をつくって・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・なぜなら、旧体制の残る力は、これを最後の機会として、これまで民衆の精神にほどこしていた目隠しの布が落ちきらぬうち、せいぜい開かれた民衆の視線がまだ事象の一部分しか瞥見していないうち、なんとかして自身の足場を他にうつし、あるいは片目だけ開いた・・・ 宮本百合子 「歌声よ、おこれ」
・・・ 新体制という声は、若人よ立て、という響をおこしたけれど、このことは実際生活の中でどんな形であらわされているだろうか。 たとえば四国の方のある女学校では、夏の炎天でも日傘をさすことをやめさせたという記事をこの間読んだ。 四国とい・・・ 宮本百合子 「女の行進」
・・・ いろいろな人がいろいろなことを云って、新体制と云って何か急に特別なものが文学の姿で出現しそうな感じを与えて、これまで文学というものは大体こういうものと思ってそれを愛していた人は、はたと行手にちがった形でも描き出さなければならないような・・・ 宮本百合子 「古典からの新しい泉」
・・・官民一致の体制は、文学の賞の本質にも十分に反映している。このことは、現実生活の中では、文部省の教科書取締りにあらわれた、文学の読みかたの、特殊な標準とも関連しているから、各種目の長篇小説の未曾有の氾濫状態の一面に、おのずと、文学とは何であろ・・・ 宮本百合子 「今日の文学と文学賞」
・・・とか種々の委員会への分散的吸収にまかせざるを得なくなって、この夏、新体制の声とともに、婦選獲得同盟は十八年の苦闘の歴史を閉じて解消してしまったのであった。 婦選の動きが日本にあってはこのように見るも痛々しい浮沈をくりかえして、公民権さえ・・・ 宮本百合子 「女性の歴史の七十四年」
・・・日本の支配権力は自分の地位のため、現体制を守る。〔三四字伏字〕、全面的な攻撃を加える。社会的経済構成としては違った二つの社会を維持するために同一の手段がとられることから、一寸見るとまどわされて、歴史的にも階級的にも全くちがう本質を同じ物に見・・・ 宮本百合子 「新年号の『文学評論』その他」
・・・べき一個人としての品位と威厳とを身につけていないことを外国に向って愧じるならば、それは、現代日本の多数の人々を、明治以来真に人格的尊厳というものが、どういうものであるかをさえ知らさないように導いて来た体制を、今なお明瞭に判断しつくし得ていな・・・ 宮本百合子 「その源」
出典:青空文庫