・・・次は消防作業でポンプはほとばしり消防夫は屋根に上がる。おかしいのはポンプが手押しの小さなものである。次は二人の消防夫が屋根から墜落。勇敢なクジマ、今までに四十人の生命を助け十回も屋根からころがり落ちた札付きのクジマのおやじが屋根裏の窓から一・・・ 寺田寅彦 「火事教育」
昔シナで鐘を鋳た後にこれに牛羊の鮮血を塗ったことが伝えられている。しかしそれがいかなる意味の作業であったかはたしかにはわからないらしい。この事について幸田露伴博士の教えを請うたが、同博士がいろいろシナの書物を渉猟された結果・・・ 寺田寅彦 「鐘に釁る」
・・・市民二百万としてその五分の一だけが消火作業になんらかの方法で手を貸しうると仮定すると、四十万人の手で五千か所の火事を引き受けることになる。すなわち一か所につき八十人あてということになる。さて、なんの覚悟もない烏合の衆の八十人ではおそらく一坪・・・ 寺田寅彦 「からすうりの花と蛾」
・・・市民二百万としてその五分の一だけが消火作業に何らかの方法で手を借し得ると仮定すると、四十万人の手で五千箇所の火事を引受けることになる。すなわち一箇所につき八十人宛ということになる。さて、何の覚悟もない烏合の衆の八十人ではおそらく一坪の物置の・・・ 寺田寅彦 「烏瓜の花と蛾」
・・・さて、このすえ付け作業がすむと今度は、両手を希薄な泥汁に浸したのちに、その手で回転する団塊の胴を両方から押えながら下から上へとだんだんなで上げると、今まではただの不規則な土塊であったものが、「回転的対称」という一つの統整原理の生命を吹き込ま・・・ 寺田寅彦 「空想日録」
・・・ 例えば殺人罪を犯した浪人の一団の隠れ家の見当をつけるのに、目隠しされてそこへ連れて行かれた医者がその家で聞いたという琵琶の音や、ある特定の日に早朝の街道に聞こえた人通りの声などを手掛りとして、先ず作業仮説を立て、次にそのヴェリフィケーシ・・・ 寺田寅彦 「西鶴と科学」
・・・胴の間の側に立っているこれもスマートな風体の男が装填発火の作業をする役割である。 艫の方の横木に凭れて立っている和服にマント鳥打帽の若い男がいちばんの主人株らしい、たぶん今日のプログラムを書いてあるらしい紙片を手に持って立っている。その・・・ 寺田寅彦 「雑記(2[#「2」はローマ数字、1-13-22])」
・・・まだ閉まっているし、時計台の針は終業の五時に少し間がある。ド・ド・ド……。まだ作業中のどの建物からもあらい呼吸づかいがきこえているが、三吉は橋の上を往復したり、鉄門のまえで、背の赤んぼと一緒に嫁や娘をまちかねている婆さんなぞにまじって、たっ・・・ 徳永直 「白い道」
・・・だが彼の作業を終った時に、重吉の勇気は百倍した。彼は大胆不敵になり、無謀にもただ一人、門を乗り越えて敵の大軍中に跳び降りた。 丁度その時、辮髪の支那兵たちは、物悲しく憂鬱な姿をしながら、地面に趺坐して閑雅な支那の賭博をしていた。しがない・・・ 萩原朔太郎 「日清戦争異聞(原田重吉の夢)」
・・・ 教室へ入って行って見ると、仕事着を着た男女生徒が、旋盤に向って注意深く作業練習をしているところである。ひろい窓から日光が一杯さしている教室中は森として、機械の音だけが響いている。もう白い髪をした指導者が一人一人の側によって仕事ぶりを親・・・ 宮本百合子 「明るい工場」
出典:青空文庫