・・・私は夢からさめたような心もちで、暫時は挨拶さえ出来ませんでしたが、その内にさっきミスラ君の言った、「私の魔術などというものは、あなたでも使おうと思えば使えるのです。」という言葉を思い出しましたから、「いや、兼ね兼ね評判はうかがっていまし・・・ 芥川竜之介 「魔術」
・・・という言葉のようにざっと数えて三十ぐらいの意味に使えるほどの豊富なニュアンスはなく、結局京都弁は簡素、単純なのである。 まるで日本の伝統的小説である身辺小説のように、簡素、単純で、伝統が作った紋切型の中でただ少数の細かいニュアンスを味っ・・・ 織田作之助 「大阪の可能性」
・・・そして、××は、使おうと思えば、いつでも使えるのだ。九時すぎに、薪が尽きてきた。浜田は、昼間に見ておいた枯れ木を取りに、初年兵の後藤をさそった。「俺ら、若しもの場合に、銃を持って行くから、お前、手ぶらで来て呉れんか。」と、浜田は、後藤に・・・ 黒島伝治 「前哨」
・・・丸が良い訳はないのですが、丸でいて調子の良い、使えるようなものは、稀物で、つまり良いものという訳になるのです。 「そんなこと言ったって欲しかあねえ」と取合いませんでした。 が、吉には先刻客の竿をラリにさせたことも含んでいるからでしょ・・・ 幸田露伴 「幻談」
・・・おばあさんはこんなふうで、魔術でも使える気でいるとたいくつをしませんでした。そればかりではありません。この窓ガラスにはもう一つ変わった所があって、ガラスのきざみ具合で見るものを大きくも小さくもする事ができるようになっておりました。だからもし・・・ 著:ストリンドベリアウグスト 訳:有島武郎 「真夏の夢」
・・・ 声の悪いのは、傷だが、それは沈黙を固く守らせておればいい。 使える。行進 馬子にも衣裳というが、ことに女は、その装い一つで、何が何やらわけのわからぬくらいに変る。元来、化け物なのかも知れない。しかし、この女のよう・・・ 太宰治 「グッド・バイ」
・・・水甕の素材は二度と使えなくても、学説や理論の素材はいつでもまた使える。こういうふうに考えて来ると学問の素材の供給者が実に貴いものとして後光を背負って空中に浮かみ上がり、その素材をこねてあまり上できでもない品物をひねり出す陶工のほうははなはだ・・・ 寺田寅彦 「空想日録」
・・・それにしても妻によくこんな気のきいた言葉が使えると思って、お前誰かに教わったのかいと、なにも答えないさきに、まず冗談半分の疑いをほのめかしてみた。すると妻は存外まじめきった顔つきで、なにをですと問い返した。開き直ったというほどでもないが、こ・・・ 夏目漱石 「手紙」
・・・善い意味、善い意味の道楽という字が使えるか使えないか、それは知りませぬが、だんだん話して行く中に分るだろうと思う。もし使えなかったら悪い意味にすればそれでよいのであります。 道楽と職業、一方に道楽という字を置いて、一方に職業という字を置・・・ 夏目漱石 「道楽と職業」
此間魯庵君に会った時、丸善の店で一日に万年筆が何本位売れるだろうと尋ねたら、魯庵君は多い時は百本位出るそうだと答えた。夫では一本の万年筆がどの位長く使えるだろうと聞いたら、此間横浜のもので、ペンはまだ可なりだが、軸が減った・・・ 夏目漱石 「余と万年筆」
出典:青空文庫