・・・ 江戸時代隅田堤看花の盛況を述るものは、大抵寺門静軒が『江戸繁昌記』を引用してこれが例証となしている。風俗画報社の『新撰東京名所図会』もまた『江戸繁昌記』を引きこれを補うに加藤善庵が『墨水観花記』を以てしている。わたくしは塩谷宕陰の文集・・・ 永井荷風 「向嶋」
・・・の観念は毫も頭を擡げる余地を見出し得ない訳ですから、たとい道徳的批判を下すべき分子が混入してくる事件についても、これを徳義的に解釈しないで、徳義とはまるで関係のない滑稽とのみ見る事もできるものだと云う例証になります。けれどももし倫理的の分子・・・ 夏目漱石 「文芸と道徳」
・・・とあるがゆえに、中学校、師範学校の教師が、本書を講ずるときに、種々様々の例証を引用して、学生の徳行を導くことならん。ずいぶん易からざる業なれども、しばらく実際に行わるべきものとしてこれにしたがうも、なお遺憾なきを得ず。 そもそも本書全面・・・ 福沢諭吉 「読倫理教科書」
・・・精神と肉体とが一致し、感情は理性とともにある行為の美しさへの招集と、善は美であり得るという事実についてのいくとおりかの例証がある。 一九四九年八月一日 追記 この集の編輯が終り、再校が出てしまってから、ふとわたし・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十五巻)」
出典:青空文庫