・・・を饒舌って、時々じろじろと下目に見越すのが、田舎漢だと侮るなと言う態度の、それが明かに窓から見透く。郵便局員貴下、御心安かれ、受取人の立田織次も、同国の平民である。 さて、局の石段を下りると、広々とした四辻に立った。「さあ、何処へ行・・・ 泉鏡花 「国貞えがく」
・・・ 今、単に経済上より観察を下しまして、この小国のけっして侮るべからざる国であることがわかります。この国の面積と人口とはとてもわが日本国に及びませんが、しかし富の程度にいたりましてははるかに日本以上であります。その一例を挙げますれば日本国・・・ 内村鑑三 「デンマルク国の話」
・・・此辺は枝葉の議論として姑く擱き、扨婦人が夫に対して之を軽しめ侮る可らずとは至極の事にして婦人の守る可き所なれども、今の男女の間柄に於て弊害の甚しきものを矯正せんとならば、我輩は寧ろ此教訓を借用して逆に夫の方を警めんと欲する者なり。顔色言語の・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・ けだしそのこれを軽蔑するとは、学理を妄談なりとして侮るに非ず、ただこれを手軽にみなして、いかなる俗世界の些末事に関しても、学理の入るべからざるところはあるべからずとの旨を主張し、内にありては人生の一身一家の世帯より、外に出ては人間の交・・・ 福沢諭吉 「慶応義塾学生諸氏に告ぐ」
・・・或は交際の都合に由りて余儀なく此輩と同席することもあらんには、礼儀を乱さず温顔以て之に接して侮ることなきと同時に、窃に其無教育破廉恥を憐むこそ慈悲の道なれ。要は唯其人の内部に立入ることを為さずして度外に捨置き、事情の許す限り之を近づけざるに・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・ 腕を組んで漫歩する紳士が、枝に止まった小鳥のように目白押しする彼等の、その真正面で、ペッと地面に不作法な唾を吐く―― 其でも彼等は体を揺って、ハハと笑う、ハハと笑う…… 皆が侮る黒坊、泣いても笑っても、白くは成れない黒坊…・・・ 宮本百合子 「一粒の粟」
・・・そこでその死なぬはずのおれが死んだら、お許しのなかったおれの子じゃというて、おぬしたちを侮るものもあろう。おれの子に生まれたのは運じゃ。しょうことがない。恥を受けるときは一しょに受けい。兄弟喧嘩をするなよ。さあ、瓢箪で腹を切るのをよう見てお・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・「聖人を侮るの罪のみは忍ぶべからず」という態度であるから、ほとんど議論にはならないのである。したがってこの書は、青年羅山の眼界が非常に狭く、考え方が自由でないことを思わせる。 羅山は非常に博学であって、多方面の著書を残している。その言説・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
・・・私はいつのまにか愛の心を軽んじ侮るようになっていたのである。私は人間を見ないで享楽の対象を見た。心の濃淡を感覚の上に移し、情の深さを味わいのこまやかさで量り、生の豊麗を肉感の豊麗に求めた。そうしてすべてを変化のゆえに、新味のゆえに尚んだ。こ・・・ 和辻哲郎 「転向」
出典:青空文庫