・・・――というよりも信じるほかはなかったのでしょう。この聖徒の我々に残した『伝説』という本を読んでごらんなさい。この聖徒も自殺未遂者だったことは聖徒自身告白しています。」 僕はちょっと憂鬱になり、次の龕へ目をやりました。次の龕にある半身像は・・・ 芥川竜之介 「河童」
・・・「悪魔を信じることは出来ますがね。……」「ではなぜ神を信じないのです? 若し影を信じるならば、光も信じずにはいられないでしょう?」「しかし光のない暗もあるでしょう」「光のない暗とは?」 僕は黙るより外はなかった。彼もまた・・・ 芥川竜之介 「歯車」
・・・ 牛は黙って、からすのいうことを聞いていましたが、なんとなくそれを信じることができませんでした。「いったい、そんなことができるだろうか。」といいました。「なんでできないことがあるものか、おまえさんたちは臆病なんだ。」と、からすは・・・ 小川未明 「馬を殺したからす」
・・・その破れた箇所には、また巧妙な補片が当っていて、まったくそれは、創造説を信じる人にとっても進化論を信じる人にとっても、不可思議な、滑稽な耳たるを失わない。そしてその補片が、耳を引っ張られるときの緩めになるにちがいないのである。そんなわけで、・・・ 梶井基次郎 「愛撫」
・・・何故ということは言わないが、――というわけは、自分は自分の経験でそう信じるようになったので、あるいは私自身にしかそうであるのに過ぎないかもしれない。またそれが客観的に最上であるにしたところで、どんな根拠でそうなのか、それは非常に深遠なことと・・・ 梶井基次郎 「Kの昇天」
・・・ 吉田はそんな話を聞くにつけても、そういう迷信を信じる人間の無智に馬鹿馬鹿しさを感じないわけにいかなかったけれども、考えてみれば人間の無智というのはみな程度の差で、そう思って馬鹿馬鹿しさの感じを取り除いてしまえば、あとに残るのはそれらの・・・ 梶井基次郎 「のんきな患者」
・・・その幸福を信じる力が起こって来るかもしれない」 路に彳んでいる堯の耳に階下の柱時計の音がボンボン……と伝わって来た。変なものを聞いた、と思いながら彼の足はとぼとぼと坂を下って行った。 四 街路樹から次には街路から・・・ 梶井基次郎 「冬の日」
・・・ そこで青年男女には、人類の健康と進歩性とを私たちが信じることができるような好み方、選び方をしてもらいたいものだ。 ところで今日娘たちの好みは果していいであろうか。その青年鑑賞の目は信頼するに足るであろうか。反対に青年たちの娘たちへ・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・ それ故に仏の遺言を信じるならば、専ら法華経を明鏡として、一切経の心を知るべきである。したがって法華経の文を開き奉れば、「此法華経ハ於テ二諸経ノ中ニ一最モ在リ二其上ニ一」とある。 また涅槃経に、「依ッテレ法ニ不レレ依ラレ人ニ」とある・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・が心配して、押川方義氏を連れて、一度公園の家を訪ねて、宗教事業にでも携わったらどうか、という話をしたという事を聞いたが、後で私が訪ねて行くと、「巌本君達が来て、宗教の話をして呉れたが、どうしても僕には信じるという心が起らないからね」と、そん・・・ 島崎藤村 「北村透谷の短き一生」
出典:青空文庫