・・・ ナ、何を馬鹿な、俺は仮にも職長だ、会社の信任を負い、また一面、奴らの信頼を荷のうて、数百の頭に立っているのだ……あンな恩知らずの、義理知らずの、奴らに恐れて、家をたたんで逃げ出すなンて、そんな侮辱された話があるものか。「うるさいッ・・・ 徳永直 「眼」
・・・、最上とか何とか先入的な価値の概念は持つべきでないし、同時に、恋愛の本質に素直でそこから自分の誠実さが感じ理解出来るだけのものを余りなく得て全生活を浄め豊かにするだけの、視野の宏大な愛、人間、自分への信任が大切と思われます。 恋愛が人間・・・ 宮本百合子 「愛は神秘な修道場」
・・・ けれども、現在の自分にとっては、その第二次的な具体的な表現が、愛の強い信任と同様の重量を持つ場合が多々あるのです。 従って、自分が死去した良人を追慕し、彼が自分の隣に坐っていた時と同様の愛に燃立った時、それに応えてくれる声、眼、彼・・・ 宮本百合子 「偶感一語」
・・・のは「裁判所を信任されていないことである」云々とたしなめた。 ニッポン・タイムスは、これらの状況を「茶番になった第二回公判」として、「法廷は小型の議会になった」と書いている。 午後、川口検事によって起訴状が読上げられた。その起訴状の・・・ 宮本百合子 「それに偽りがないならば」
・・・一都市の政治的、商業的問題を本国と取定める場合には、誰か、彼等の信任する一人を、あらゆる舌、あらゆる心の代表として選出しなければならない。共和政体は、合衆国が独立を宣言するより以前から、その胚種を持っていたのではないでしょうか。 困難に・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
・・・阿部・北村両氏は、日本の文学者とその読者である知識人、労働者すべてからの信任状を負うて出発したはずである。 六月二十五日、朝鮮に動乱がひきおこされてから、日本のジャーナリズム、新聞、ラジオなどの上で平和と原爆禁止についての発言は、何とな・・・ 宮本百合子 「私の信条」
・・・わが骨肉の老朽を自ら感じる者等は活力に溢れ、日々の冒険で世界を拡張させて行く者共に、絶大な期待と信任を覚えたに違いない。彼等は一つ一つに新たな発見をすることが如何程、自分等皆の生活に重大な意義を持っているか、複雑な近代人の持ち得る以上の直覚・・・ 宮本百合子 「われを省みる」
・・・ 学者というものも、あの若い時に廃人同様になって、おとなしく世を送ったハルトマンや、大学教授の職に老いるヴントは別として、ショオペンハウエルは母親と義絶して、政府の信任している大学教授に毒口を利いた偏屈ものである。孝子でもなければ順民で・・・ 森鴎外 「沈黙の塔」
出典:青空文庫