・・・旗は、よろこびと幸福とへ向って生活の軌道を切りかえる親切と勇気にみちた信号合図の旗として、かざされ、振られなければならない。嬉々とした人生の建設のために構図し、労作する、その高き旗じるしとして、婦人の大集団の上に、勇敢に、はためかなければな・・・ 宮本百合子 「合図の旗」
・・・雑誌のモードは、山に海にと、闊達自由な服装の色どりをしめし、野外の風にふかれる肌の手入れを指導しているけれども、サンマー・タイムの四時から五時、ジープのかけすぎる交叉点を、信号につれて雑色の河のように家路に向って流れる無数の老若男女勤め人た・・・ 宮本百合子 「偽りのない文化を」
・・・ 黄色い羽形の上についた信号燈の色 赤、青○こわれた電燈カサが床の間の隅っこにいつからか置いてある。○大雨 急行がとまっている。「久栄で 白米一俵とりにきよった たき出しでもするじゃあろうて」 汽車/Kisha ・・・ 宮本百合子 「Sketches for details Shima」
・・・ 電車が途絶えた折からで、からりとした夜の大通りの上に赤青の信号燈が閃き、普段の夜のとおり明るい事務所の内で執務している従業員の姿が外から見えた。何心なく行くと、引込線の通った車庫のわきに一寸した空地のような場処がある。その叢の物かげに・・・ 宮本百合子 「電車の見えない電車通り」
・・・赤字は危険信号を鳴り響かせている。この赤字の中でどうして人々は生きているだろう。官庁などの月給は、今日の下駄一足、足袋一足に近い金額のまま据置かれた。特別の技能を持たず、収入の途を図れない人々が落ちて行くところは闇商売であり、賭博である。・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
出典:青空文庫