・・・ そういう人達にとっては、人間に対する、真の慈愛ということも、信義ということも欠けているのだ。 しかし、若し、その人達が、人間についてほんとうに考えるなら、そして、人間を愛する心があるなら、現在、みんなが、人間に対して抱いているよう・・・ 小川未明 「人間否定か社会肯定か」
・・・ 現実の不条理からひきはなして、たとえばフランスのように小さい銀貨の上へ、友愛だの信義だの自由だのという文字を鋳りつけることは、云って見れば何とたやすいことだろう。 自分がほかならぬ一人の女として、この世代のうちに生きているというこ・・・ 宮本百合子 「時代と人々」
・・・ まことに女らしい天性によって、孝子夫人の情熱の主題は、日常生活の中での人と人との間の愛と信義、心意気と好みとの上にあつめられていたと思うのは誤りだろうか。孝子夫人は、何につけても本当に心のたっぷりさを愛していた方だと思う。自分も心のた・・・ 宮本百合子 「白藤」
・・・いては生存していても、歴史の進む方向を判断する精神において既に死んでいる者が、死して死なざる生命に甦らされて今日物を云うという場合、死者に甦らされた生者として語るべき唯一のことは、真実あるのみである。信義ある言葉のみが語るべき言葉である。・・・ 宮本百合子 「信義について」
・・・これは革命の信義の課題でもある。その半面、文学の分野ではどのように語るべきことをまっすぐに語り、検討しあう責任があるかという事実も学んだ――民主主義文学について枠内で語るのではなく、民主主義文学者としての責任において、日本の文学の諸問題につ・・・ 宮本百合子 「人間性・政治・文学(1)」
・・・の中で、光彩陸離と、なり上り結婚のために友情も信義もけちらかして我利をたくらむやり手な美しい女性を描いた。家庭の純潔が言われても、社会がこれらの家庭の純潔を全うさせるだけの条件を一つも備えていなかったことはオルゼシュコの「寡婦マルタ」の哀れ・・・ 宮本百合子 「人間の結婚」
・・・六月。信義について。七月。ある回想から。播州平野。八月。青田は果なし。九月。風知草。十月。琴平。現代の主題。風知草。十一月。郵便切手。図書館。風知草。単行本。『伸子』〔第一部〕。私たちの建設。一九四七・・・ 宮本百合子 「年譜」
・・・ そういう社会をのぞみ、信義をもち得る社会を求める心からバルザックは反対党――共和党に対して王党となったのか。 ユーゴーは共和党であった。そしてナポレオン三世の帝政布告に抗し二十年間亡命、一八七〇年普仏戦争による帝政崩壊後かえる。「・・・ 宮本百合子 「バルザックについてのノート」
・・・国際信義を裏切った不意打から、太平洋戦争が始まって以来、先ず日本国中ではこれまで漠然と考えられていた「日本の婦人」というものが急にはっきりと「戦う日本の婦人」という角度から見られ、語られ、型に嵌められようになった。例えば婦人雑誌などで、これ・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
出典:青空文庫