・・・主人公の名前を、かりに、津島修治、とでもして置こう。これは私の戸籍名なのであるが、下手に仮名を用いて、うっかり偶然、実在の人の名に似ていたりして、そのひとに迷惑をかけるのも心苦しいから、そのような誤解の起らぬよう、私の戸籍名を提供するのであ・・・ 太宰治 「家庭の幸福」
・・・私の本名は、修治というのである。 中畑さんに思いがけなく呼びかけられてびっくりした経験は、中学時代にも、一度ある。青森中学二年の頃だったと思う。朝、登校の途中、一個小隊くらいの兵士とすれちがった時、思いがけなく大声で、「修ッちゃあ!・・・ 太宰治 「帰去来」
・・・『右者事務室に出頭すべし、津島修治。』文学部事務所にその掲示は久しくかけられてあった。僕は太宰治を友人であるごとくに語り、そして、さびしいおもいをした。太宰治は芸術賞をもらわなかった。僕は藤田大吉という人の作品を決して読むまいと心にちかった・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・私たちは隣りの六畳の控えの間に行って、みんなと挨拶を交した。修治は、ちっとも変らぬ。少しふとってかえって若くなった、とみんなが言った。園子も、懸念していたほど人見知りはせず、誰にでも笑いかけていた。みんな控えの間の、火鉢のまわりに集って、ひ・・・ 太宰治 「故郷」
・・・いまも、修治に言っていたのだが、何か不自由なものがあったら、俺の家へ来なさい。なんでもある。芋でも野菜でも米でも、卵でも、鶏でも。馬肉はどうです、たべますか、俺は馬の皮をはぐのは名人なんだ、たべるなら、取りに来なさい、馬の脚一本背負わせてか・・・ 太宰治 「親友交歓」
・・・「や、修治。」と私の幼名を呼ぶ者がある。「や、慶四郎。」と私も答えた。 加藤慶四郎君は白衣である。胸に傷痍軍人の徽章をつけている。もうそれだけで私には万事が察せられた。「御苦労様だったな。」私のこんな時の挨拶は甚だまずい。し・・・ 太宰治 「雀」
出典:青空文庫