・・・だからどうせ世の中は理想通りに行かないものだとあきらめて、好い加減な候補者で満足するさ。』と、世話を焼いた事があるのですが、三浦は反ってその度に、憐むような眼で私を眺めながら、『そのくらいなら何もこの年まで、僕は独身で通しはしない。』と、ま・・・ 芥川竜之介 「開化の良人」
・・・つれた女は芸者の候補者だ。 お君が一座の人々をぎろぎろ見くらべているところで、お袋はお貞と吉弥とから事情を聴き、また僕の妻にも紹介された。妻もまたお袋にその思ったことや、将来の吉弥に対する注文やを述べたり、聴き糺したりした。期せずして真・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・が室生氏の推薦で芥川賞候補にあげられ、四作目の「放浪」は永井龍男氏の世話で「文学界」にのり、五作目の「夫婦善哉」が文芸推薦になった。 こんなことなれば、もっと早く小説を書いて置けばよかったと、現金に考えた。八年も劇を勉強して純粋戯曲論な・・・ 織田作之助 「わが文学修業」
・・・農民から立候補した者は、自分の味方であるが、労働者は、自分たちの利益を考えないものであるように思っている。だから、附近の鉱山から立候補するものがあっても、近くの農民がそれに投票しようとしない。そして却って、地主で立候補した者に買収されたりす・・・ 黒島伝治 「選挙漫談」
・・・そうして時たま私に手紙を寄こして、その娘の縁談に就いて、私の意見を求めたりなどして、私もその候補者の青年と逢い、あれならいいお婿さんでしょう、賛成です、なんてひとかどの苦労人の言いそうな事を書いて送ってやった事もあった。 しかし、いまで・・・ 太宰治 「朝」
・・・実は昨年、県会議員選挙に立候補してお蔭で借金へ毎月可成とられるので閉口。選挙のとき小泉邦録君から五十円送って貰った。これだけでも早くお返ししたいと思い乍ら未だにお返し出来ずにいる始末。五十円位の金が出来ないのは何んとも羞しいがさりとて、その・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・ ざッざッざッという軍靴の響きと共に、君たち幹部候補生二百名くらいが四列縦隊で改札口へやって来た。僕は改札口の傍で爪先き立ち、君を捜した。君が僕を見つけたのと、僕が君を見つけたのと、ほとんど同時くらいであったようだ。「や。」「や・・・ 太宰治 「未帰還の友に」
・・・ けれども私は、或る文学賞の候補者として、私に一言の通知もなく、そうして私が蹴落されていることまで、附け加えて、世間に発表された。人おのおの、不抜の自尊心のほどを、思いたまえ。しかるに受賞者の作品を一読するに及び、告白すれば、私、ひそか・・・ 太宰治 「もの思う葦」
・・・それが二、三ヶ月後くらいに新聞の広告に大きく名前が他の諸先輩と並んで出て、それが後日第一回芥川賞の時に候補に上げられました。 その「逆行」と殆ど前後して同人雑誌「日本浪曼派」に「道化の華」が発表されました。それが佐藤春夫先生の推奨にあず・・・ 太宰治 「わが半生を語る」
・・・強盗犯人の嫌疑候補者の仲間入りをしたのは前後にこの一度限りであった。「藤沢江の島間電車九月一日開通、衝突脱線等あり、負傷者数名を出す」という文句の脇に「藤沢停車場前角若松の二階より」とした実に下手な鉛筆のスケッチがある。 逗子養神亭・・・ 寺田寅彦 「海水浴」
出典:青空文庫