・・・高等学校へはいっただけでもう何か偉い人間だと思いこんでいるらしいのがばかばかしかった。官立第三高等学校第六十期生などと名刺に印刷している奴を見て、あほらしいより情けなかった。 入学して一月も経たぬうちに理由もなく応援団の者に撲られた。記・・・ 織田作之助 「雨」
・・・お医者様が「偉いナー私より多いがナー」と言われる位で有りました。二十日ばかり心臓を冷やしている間、仕方が無い程気分の悪い日と、また少し気分のよい日もあって、それが次第に楽になり、もう冷やす必要も無いと言うまでになりました。そして、時には手紙・・・ 梶井久 「臨終まで」
・・・なかなかの才物だとしきりに誉め称やし、あの高ぶらぬところがどうも豪い。談話の面白さ。人接のよさと一々に感服したる末は、何として、綱雄などのなかなか及ぶところでないと独り語つ。光代は傍に聞いていたりしが、それでもあの綱雄さんは、もっと若くって・・・ 川上眉山 「書記官」
・・・取残された僕は力味んではみたものの内内心細かった、それでも小作人の一人二人を相手にその後、三月ばかり辛棒したねエ。豪いだろう!」「馬鹿なんサ!」と近藤が叱るように言った。「馬鹿? 馬鹿たア酷だ! 今から見れば大馬鹿サ、然しその時は全・・・ 国木田独歩 「牛肉と馬鈴薯」
・・・「イヤこれは僕が悪かった、君に向って発すべき問ではなかったかも知れない。まア静かに聞き給え、僕の問うたのは……」「最も活動する自然力を支配する人間は最も冷静だから安心し給え。」「豪いよ。」「勿論! そこで君のいう所のエンとは・・・ 国木田独歩 「恋を恋する人」
・・・ 孟子の母の断機、三遷の話、源信僧都の母、ガンジーの母、ブースの母、アウガスチンの母、近くは高村光雲の母など、みな子どもを励まし、導いて、賢い、偉い人間になるように鼓吹した。それは動物的、本能的な愛からもっと高まって、精神的、霊的な段階・・・ 倉田百三 「女性の諸問題」
・・・それで、「誰某は偉い奴だ、史記の列伝丈を百日間でスッカリ読み明らめた」というような噂が塾の中で立つと、「ナニ乃公なら五十日で隅から隅まで読んで見せる」なんぞという英物が出て来る、「乃公はそんなら本紀列伝を併せて一ト月に研究し尽すぞ」という豪・・・ 幸田露伴 「学生時代」
・・・僕等よりズット偉い人だって、腕なんかがアテになるものじゃあるまい。」と云った。何かが破裂したのだ。客はギクリとしたようだったが、さすがは老骨だ。禅宗の味噌すり坊主のいわゆる脊梁骨を提起した姿勢になって、「そんな無茶なことを云い出して・・・ 幸田露伴 「鵞鳥」
・・・ 一昨年の夏、露国より帰航の途中で物故した長谷川二葉亭を、朝野挙って哀悼した所であった、杉村楚人冠は私に戯れて、「君も先年米国への往きか帰りかに船の中ででも死んだら偉いもんだったがなア」と言った。彼れの言は戯言である、左れど実際私として・・・ 幸徳秋水 「死生」
・・・来た人を見ると、親達は心配とこわさで、クラクラする程でした。物かげでは、母が高い声を出して娘を諭し、人々の前に出す迄に、スバーの涙を一層激しくしました。来た偉い人は、長い間、彼女をじいっと見た揚句、「そんなに悪くもない。」と思いまし・・・ 著:タゴールラビンドラナート 訳:宮本百合子 「唖娘スバー」
出典:青空文庫