・・・芸において、彼等の人種が中国民に対して過去に抱いていた偏見を突破して、中国の農民たらんと真に努力している。彼等の俳優としてのそういう熱意が快く感じられると共に、中国の現実そのものの力が、今日国際的な関心の性質を次第に真面目な人間的なリアリス・・・ 宮本百合子 「映画の語る現実」
・・・をみた場合、作者は検事があの作品から引き出して来られたような形で母性を讚えたのではなくて、そのような自然な母の愛が此の世への出生をいため傷つけた私生児と云うものに対する従来の社会的偏見に反省を促されたものであったと思われます。私生児を育て抜・・・ 宮本百合子 「「女の一生」と志賀暁子の場合」
・・・フォン・ヴェストファーレンが社会的偏見で見られているユダヤ人のマルクス一家と、そのように親しくつきあい、娘たちの友情を認めていたことだけでも、なみなみの人ではなかったと思われる。カールの快活で独特な精気にみちた人がらは、イエニーの父ヴェスト・・・ 宮本百合子 「カール・マルクスとその夫人」
・・・種々な偏見や、反抗を捨てて、凝っと自分の仕事を見詰めると、少くとも自分は、正直に、成っていない事を直覚せずにはいられない。その未熟な事は、勿論芸術的経験の乏しい事にも依る。然し、創作も、筆先の器用さでのみ決するのを正としない自分は、どうかし・・・ 宮本百合子 「概念と心其もの」
・・・迷信だの、いろいろの事に対する偏見というものから今日人間が全く自由になっているということは決していい切れないのが実際である。物質と精神との力で、科学の力を最も活溌に毎日の市民生活にとり入れているはずのアメリカの一つの州では、宗教上の偏見から・・・ 宮本百合子 「科学の常識のため」
・・・母が、子供たちをおゆきのところへ行かせたがらなかった母らしい潔癖と偏見の意味もわかった。もうその頃は、おゆきは、別のところに引越して、養子の世話になっていた。 更に何年かたったとき、何かの雑誌で「ねぶか」という落語をよんだ。落語をこのむ・・・ 宮本百合子 「菊人形」
・・・ ゴールスワアジーらしい穏やかさを湛えながら、ほんとの人間性のきよらかさ、まじりけない行為を圧殺しているイギリスの型にはまったモラル、純潔についての偏見に抗議している。 D・H・ローレンスも、純潔についてのキリスト教会的偏見に対して・・・ 宮本百合子 「傷だらけの足」
・・・○アングロサクソン人の、ロシア及ドイツに対する無智な偏見。○イギリスとアメリカの短篇小説の違い、主としてテクニック上より。 東京会館で夕飯。お濠の景色。日本風なすき焼部屋。ミスが、面白い変化物語と、アナトール・フランス風の話をし・・・ 宮本百合子 「狐の姐さん」
・・・そして誰にともなく、余りいつも負けるのは支那の兵隊さんときめて遊んだりばっかりしているからなんだわ、きっと、と四つの子供心に植えこまれている偏見について説明した。 婦人画家 茶の間で、壁のところへ一枚の油絵をよ・・・ 宮本百合子 「くちなし」
・・・室町時代の文化を何となく貶しめるのは、江戸幕府の政策に起因した一種の偏見であって、公平な評価ではない。我々はよほどこの点を見なおさなくてはなるまいと思う。 室町時代の中心は、応永永享のころであるが、それについて、連歌師心敬は、『ひとり言・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫