・・・男女の痴話の傍杖より、今は、高き天、広き世を持つ、学士榊三吉も、むかし、一高で骨を鍛えた向陵の健児の意気は衰えず、「何をする、何をするんだ。」 草の径ももどかしい。畦ともいわず、刈田と言わず、真直に突切って、颯と寄った。 この勢・・・ 泉鏡花 「みさごの鮨」
・・・それからまた胴乱と云って桐の木を刳り抜いて印籠形にした煙草入れを竹の煙管筒にぶら下げたのを腰に差すことが学生間に流行っていて、喧嘩好きの海南健児の中にはそれを一つの攻防の武器と心得ていたのもあったらしい。とにかくその胴乱も買ってもらって嬉し・・・ 寺田寅彦 「喫煙四十年」
・・・しかしこの手造りのボールがバットの頭にカーンとくる手ごたえは今でも当時の健児らの「若かりし日」の夢の中からかなりリアルに響いてくるものの一つである。ミットなどは到底手に入らなかった。この思い出を書いている老書生の左手の薬指の第一関節が二十度・・・ 寺田寅彦 「野球時代」
出典:青空文庫