・・・ 私は通りへ出ると、口笛を吹きながら、傍目も振らずに歩き出した。 私はボーレンへ向いて歩きながら、一人で青くなったり赤くなったりした。 五 私はボーレンで金を借りた。そして又外人相手のバーで――外人より入れない・・・ 葉山嘉樹 「淫賣婦」
・・・私はオリザニンの注射カムフルの注射で飽きあきしてスエ子の一日に二度の注射を傍目にも重荷のように眺めます。スエ子は目下職業をさがしています。 きのうは、繁治さん、栄さんや徳さんの奥さんなど皆で夕飯をたべました。徳さんもこの暑いのに可哀そう・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・その世界に生きる人間群の現実的な生活のモティーヴだの動向だのという面からの観察は研ぎ込まれていず、人物の自然発生な方向と調子に従って、ひたすらその路一筋を辿りつめる肉体と精神の動きが跡づけられている。傍目もふらぬそれぞれの人間と事象との在り・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・働く女がこんな勢で殖えているのだから、働く男女らしい傍目にも心持よい二人連れが殖えてゆくのは自然だろうのに、咎めだてされなければならない一組がふえているだけだとしたら、それは余り惨めだと思う。堅気の働く若い娘なんか、二人連で外を歩いたりしな・・・ 宮本百合子 「働く婦人」
・・・地下道を入ったときから一列におかれて傍目もふらず席まで運ばれて来たような傍聴人席にも、どこやら、だれたざわめきが漲って来た。しきりに手洗いに立つひとが出来た。それは婦人席にもあって、計らぬ小競合を生じた。というのは、遂に二時も過ぎて倦怠が傍・・・ 宮本百合子 「待呆け議会風景」
出典:青空文庫