・・・最後に、ひとつ、これは中でも傑出しています。「地震」KLEIST チリー王国の首府サンチャゴに、千六百四十七年の大地震将に起らんとするおり、囹圄の柱に倚りて立てる一少年あり。名をゼロニモ・ルジエラと云いて、西班牙の産なるが、今や此世・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・しかし、さらに一歩を進めて、科学上の傑出した著述はすべて芸術であると言おうとすれば、これにはおそらく容易に同感を表しかねる人が多いであろうと思われる。こういう見方はしかし、実はそれほど無稽なものでないということは、すでに自分のみならず、他の・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・ 先生いう、――われらが流俗以上に傑出しようと力めるのは、人として当然である。けれどもわれらは社会に対する栄誉の貢献によってのみ傑出すべきである。傑出を要求するの最上権利は、凡ての時において、われらの人物如何とわれらの仕事如何によっての・・・ 夏目漱石 「博士問題とマードック先生と余」
・・・ では、古典ロシア革命文学の中に、どんな傑出した階級的アレゴリーがあったか? ほとんどない。 ソヴェト文学の中にあるか? ない。 盛りあがった力あるプロレタリアートが階級的立場に立ってものをいうとき、遠慮して、兎だの亀だ・・・ 宮本百合子 「新たなプロレタリア文学」
・・・はたしかに昨今の傑出した映画の一である。「大地」を製作させる今日の中国の歴史生活の意味を感じさせる作品である。近衛秀麿氏の言う如く単なる宣伝映画ではないのである。 つづいて、私は或る機会で、文部省その他の役所の人々が集まってこしらえてい・・・ 宮本百合子 「映画の語る現実」
・・・は内容、構成、文章等最も傑出した作品である。 今日の私たちにとって、森鴎外のこういう歴史への態度は、おのずからいろいろのことを考えさせると思う。「興津彌五右衛門の遺書」は、鴎外が人間の異常な行動のモメントとして、強烈な感銘を本人に与えた・・・ 宮本百合子 「鴎外・芥川・菊池の歴史小説」
・・・そして、虫は好かないけれど、演技は傑出しているというところを自分の好悪からはなして観るような芸術鑑賞のよろこびも、もっと女のゆたかな客観性としてもたれてもいいであろう。これまでの常識は主観的といえば身に近く熱っぽくあたたかいもの、客観性とい・・・ 宮本百合子 「女の歴史」
・・・しかも芸術作品として彼女のそれらの製作を傑出させているのは、ケーテの確かで深い現実観察からもたらされた写実的な手法である事実は、私たちに多く考えさせるものを持っている。ケーテが民衆の生活を描く画家として属していた歴史の世代が、ドイツにおける・・・ 宮本百合子 「ケーテ・コルヴィッツの画業」
・・・トルストイのコサックや傑出した短篇「ハジ・ムラート」を読むだけでいい、帝政時代の権力は、自分たちをこやすために搾取するための植民地、属国、だましやすい辺土の住民としてだけ彼等を思い出した。 コーカサスの雄大極まりない山嶽を南へ縫ってウラ・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェト同盟の文化的飛躍」
・・・こと、作家の人間的な全面がおのずからそこに露出しているということ、しかも芸術家である人々は、それぞれの時代や自身の制約の中にありながらも比較的常に敏感に自分と周囲との人間生活を観察しているので、小説は傑出したものであればあるほど謂わば人間臭・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
出典:青空文庫