同志小林多喜二は、日本のプロレタリア文学運動において、実に類のすくない一人の傑出した世界的作家であった。 小説は、小樽で銀行に勤めていた時分から書きはじめていたが、その時分から同志小林の作品は、はっきり勤労階級の生活の・・・ 宮本百合子 「同志小林多喜二の業績」
・・・バルザックが、彼の人間喜劇のところどころに隠見させているフーシェの方が、垣間見の姿ながら時代の生々しい環境のうちにあくどい存在そのままにとらえられていて、はるかに傑出している。 ナポレオン伝において、大革命につづく混乱期に列国の旧勢力と・・・ 宮本百合子 「なぜ、それはそうであったか」
・・・またイギリスの最も傑出した作家の一人、サッカレーの作品はその傑作「虚栄の市」の中で、光彩陸離と、なり上り結婚のために友情も信義もけちらかして我利をたくらむやり手な美しい女性を描いた。家庭の純潔が言われても、社会がこれらの家庭の純潔を全うさせ・・・ 宮本百合子 「人間の結婚」
・・・彼女の許から去った。これはメー叔母が死んだよりも大きい苦痛をフロレンスにもたらした。 けれども、彼女の不撓な気質は、それから後は一層広汎な病院、貧民収容所の状態を改善した。彼女の傑出した論説の中には一九〇九年の窮民救助法調査会に先鞭をつ・・・ 宮本百合子 「フロレンス・ナイチンゲールの生涯」
・・・ この作品は、少くとも同じ作者によって書かれた従前の諸作のうちでは、この作者の主要なテーマ、何をなすべきかが積極的に答えられている点でも傑出したものであることに疑いない。 ところで、私は読者とともにもう一度この作品の中へもぐって行っ・・・ 宮本百合子 「山本有三氏の境地」
・・・ このように錯雑した現実の中にある現代の文学としては、云ってみれば、文学と歴史とのことが今日において一般の関心をひきながらも、続々傑出した歴史文学を生み出して行き得ないでいる社会と文学の生理そのものが、後代に向って一つの歴史的事実を訴え・・・ 宮本百合子 「歴史と文学」
・・・東西の傑出した女性の作家は、兎に角彼女等の芸術家的客観性によって、男性を描写してはいる。然し、それは往々余り冷静すぎ、傍観的態度でありすぎ、または、道徳上の批評を多く加えてとりあつかわれている。何だかたっぷりしない。色彩の豊富な活きた印象が・・・ 宮本百合子 「わからないこと」
・・・ 木下杢太郎はその享楽の力の広汎豊富な点において確かに現代に傑出した男である。彼はその触れる物象に対して類まれなほど活発に反応する。そうしてその美を新鮮な味わいにおいてすくい取る。しかも彼は少数の物象にとどまることをしないで、彼を取り巻・・・ 和辻哲郎 「享楽人」
・・・当時ベルリンで逢う日本人のうちでは、一番傑出した人物であったかもしれない。しかしまだ若い上に、釣り合いのとれないチグハグなところがあった。それは当人も気づいていて、「おれは日本語の丁寧な言葉ってものを一つも知らないんだよ。だから日本から来た・・・ 和辻哲郎 「漱石の人物」
出典:青空文庫