・・・ 然るに全校の人気、校長教員を始め何百の生徒の人気は、温順しい志村に傾いている、志村は色の白い柔和な、女にして見たいような少年、自分は美少年ではあったが、乱暴な傲慢な、喧嘩好きの少年、おまけに何時も級の一番を占めていて、試験の時は必らず・・・ 国木田独歩 「画の悲み」
・・・ヒルデブラントの道徳的価値盲の説のように、人間の傲慢、懶惰、偏執、欲情、麻痺、自敬の欠乏等によって真の道徳的真理を見る目が覆われているからだ。倫理学はこの道徳盲を克服して、あらゆる人と時と処とにおいて不易なる道徳的真理そのもの、ジットリヒカ・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・ 日蓮のかような自負は、普遍妥当の科学的真理と、普通のモラルとしての謙遜というような視角からのみみれば、独断であり、傲慢であることをまぬがれない。しかし一度視角を転じて、ニイチェ的な暗示と、力調とのある直観的把握と高貴の徳との支配する世・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・ それが独りよがりの傲慢になってしまうか、中途半端な安逸に満足してしまうかである。 処女は処女としての憧憬と悩みのままに、妻や、母は家庭や、育児の務めや、煩いの中に、職業婦人は生活の分裂と塵労とのうちに、生活を噛みしめ、耐え忍びより・・・ 倉田百三 「女性の諸問題」
・・・眼鼻、口耳、皆立派で、眉は少し手が入っているらしい、代りに、髪は高貴の身分の人の如くに、綰ねずに垂れている、其処が傲慢に見える。 夜盗の類か、何者か、と眼稜強く主人が観た男は、額広く鼻高く、上り目の、朶少き耳、鎗おとがいに硬そうな鬚疎ら・・・ 幸田露伴 「雪たたき」
・・・それはまるで人を見下げた、傲慢な調子だった。そして帰りに一緒になることにしていたのに、そのおかみさんはさッさと自分だけ先きに帰って行ってしまった。背中の子供は頭が大きくて、首が細く、歩くたびにガク/\と頭がどっちにも転んだ。 上田の進ち・・・ 小林多喜二 「母たち」
・・・ さて、それでは今回は原作をもう少し先まで読んでみて、それから原作に足りないところを私が、傲慢のようでありますが、たしかに傲慢のわざなのでありますが、少し補筆してゆき、いささか興味あるロマンスに組立ててみたいと思っています。この原作に於・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・あの人は知っているのだ。ちゃんと知っています。知っているからこそ、尚更あの人は私を意地悪く軽蔑するのだ。あの人は傲慢だ。私から大きに世話を受けているので、それがご自身に口惜しいのだ。あの人は、阿呆なくらいに自惚れ屋だ。私などから世話を受けて・・・ 太宰治 「駈込み訴え」
・・・は、そんな素朴な命題があって、思考も、探美も、挨拶も、みんなその上で行われているもので、こんなに毎晩毎晩、同じように、寝そべりながら虚栄の挨拶ばかり投げつけ合っているのは、ずいぶん愚かな、また盲目的に傲慢な、あさましいことではないのか。ここ・・・ 太宰治 「花燭」
・・・そこへ竜騎兵中尉が這入って来て、平生の無頓着な、傲慢な調子でこう云った。「諸君のうちで誰か世界を一周して来る気はありませんか。」 ただこれだけで、跡はなんにも言わない。青天の霹靂である。一同暫くは茫然としていた。笑談だろうか。この貴・・・ 著:ダビットヤーコプ・ユリウス 訳:森鴎外 「世界漫遊」
出典:青空文庫