・・・朝は、黄金色のお日さまの光が、とうもろこしの影法師を二千六百寸も遠くへ投げ出すころからさっぱりした空気をすぱすぱ吸って働き出し、夕方は、お日さまの光が木や草の緑を飴色にうきうきさせるまで歌ったり笑ったり叫んだりして仕事をしました。殊にあらし・・・ 宮沢賢治 「カイロ団長」
・・・働かされ、又働き、そしてその働きによってこそ、疲れて夕刻に戻る家路を保って来ていたのではなかったろうか。 良人を、兄を、父を、戦争で奪われた日本の数百万の婦人は、身をもってこの事情を知りつくしている筈だと思う。 戦争のない日本を創り・・・ 宮本百合子 「合図の旗」
・・・権兵衛は幼名権十郎といって、島原征伐に立派な働きをして、新知二百石をもらっている。父に劣らぬ若者である。このたびのことについては、ただ一度父に「お許しは出ませなんだか」と問うた。父は「うん、出んぞ」と言った。そのほか二人の間にはなんの詞も交・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・その大将め、はるか対方に栗毛の逸物に騎ッてひかえてあったが、おれの働きを心にくく思いつろう、『あの武士、打ち取れ』と金切声立てておッた」「はははは、さぞ御感に入りなされたろう、軍が終ッて。身に疵をば負いなされたか」「四カ所負いたがい・・・ 山田美妙 「武蔵野」
・・・言葉による物語と、形象による表現とは、かなり異なってもいるが、しかしそれが同じ想像力の働きであることを考えれば、いろいろ気づかされる点があることと思う。 神々の物語にしても、この埴輪の人物にしても、前に言ったようにいかにも稚拙である。し・・・ 和辻哲郎 「人物埴輪の眼」
出典:青空文庫