・・・これを主客顛倒と見るのは始めから自然は客であるべきはずとの僻目から起るのである。――まあこういうのが非難の要点である。 いかにもごもっともな御説で、余はこれに反対すると云わんよりは、むしろ大賛成を表したいくらいである。せんだってもある人・・・ 夏目漱石 「コンラッドの描きたる自然について」
・・・それから僻目かも知れないが、先生を訪問しても、先生によっては閾が高いように思われた。私は少し前まで、高校で一緒にいた同窓生と、忽ちかけ離れた待遇の下に置かれるようになったので、少からず感傷的な私の心を傷つけられた。三年の間を、隅の方に小さく・・・ 西田幾多郎 「明治二十四、五年頃の東京文科大学選科」
・・・それともそう見えたのは家康の僻目であったか。確かな事は誰にもわからなんだ。佐橋家のものは人に問われても、いっこう知らぬと言い張った。しかし佐橋家で、根が人形のように育った人参の上品を、非常に多く貯えていることが後に知れて、あれはどうして手に・・・ 森鴎外 「佐橋甚五郎」
出典:青空文庫