・・・私はドイツ哲学の優秀を疑うものではないが、右にいったように、フランス哲学にはフランス哲学に独得なものがあり、それはドイツ哲学やイギリス哲学にはないものであると思う。概念的体系に捕われて案外に内容の貧弱なものよりも、かえって直覚的な物の見方考・・・ 西田幾多郎 「フランス哲学についての感想」
・・・そこへ巧みにつけ入って、ドイツ民族の優秀なことや、将来の世界覇権の夢想や、生産の復興を描き出したヒトラー運動は、地主や軍人の古手、急に零落した保守的な中流人の心をつかんで、しだいに勢力をえ、せっかくドイツ帝政の崩壊後にできたワイマール憲法を・・・ 宮本百合子 「明日の知性」
・・・ 一つの学校の中で、優秀な細胞があり、自治会があり、そこに属す学生はすべて頭脳明晰だということだけが、その学校全体の学生の精神水準を示すとは云いきれないし、日本の青年の進歩の総和的な標準だとはいえません。東大でも、伊藤ハンニまがいの山師・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・ ロシアの革命の歴史をみると、そこには人類の宝のような優秀な無垢な人々の活動が見出される。同時に、その社会のあらゆる悪計と詭略と恥しらずを身にそなえたフーシエの徒輩も見出される。階級社会の力が面と面とをむけて格闘する革命の現実のうちにこ・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第九巻)」
・・・日本のなかに、客観的な真実、学問上の真理、生活の現実を否定して、日本民族の優秀性と、侵略的大東亜主義を宣伝する文筆だけが許される段階に入りつつあった。ジャーナリストたちは、規準のわからない発禁つづきに閉口して、内務省の係の人に執筆を希望しな・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第五巻)」
・・・先日も優秀な技師がピストルでやられました。それは優秀な人でしたがね。一度横須賀に来てみて下さい。僕らの工場をお見せしますから。」「いや、そんな所を見せて貰っても、僕には分らないし、知らない方がいいですよ。あなたにこれでお訊ねしたいことが・・・ 横光利一 「微笑」
・・・のみならず世阿弥は、能楽に関する理論においても、実に優秀な数々の著作を残しているのである。また心敬は、絵かきの周文を、最第一、二、三百年の間に一人の人とほめている。周文は応永ごろの人であるが、彼の墨絵はこの時代の絵画の様式を決定したと言って・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
・・・この種の民衆は、たとえばトルストイの芸術論を基礎として、多くの優秀な芸術品の破壊を命令しないとも限らない。 もしこうなるとすれば、ロマン・ロオランのごとき人が、殉教的な熱情をもって高貴な芸術と民衆との間に通弁すべき時が来るのである。ここ・・・ 和辻哲郎 「世界の変革と芸術」
・・・生の充実、完全、強烈、――従って人格価値の優秀……生の意義が実現せられ、人類の生活がそのあるべき方に、その目標の方に導かれて行く所の、白熱せる本然生活がなくてはならぬ。ここに何ものを犠牲にしても自己を表現しないではいられない切迫した内的必然・・・ 和辻哲郎 「創作の心理について」
・・・ が、これらの面の真の優秀さは、それを棚に並べて、彫刻を見ると同じようにただながめたのではわからない。面が面として胴体から、さらに首から、引き離されたのは、ちょうどそれが彫刻と同じに取り扱われるのではないがためである。すなわち生きて動く・・・ 和辻哲郎 「面とペルソナ」
出典:青空文庫