・・・だから女にでも、少し器用なら容易に覚えられる話、写真屋も商売となると技術よりは客扱いが肝腎だから、女の方がかえって愛嬌があって客受けがイイという話、ここの写真屋の女主人というは後家さんだそうだが相応に儲かるという咄、そんな話を重ねた挙句が、・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
・・・お婆さんは、少しでもお金が儲かるなら、決していやな顔付をしませんでした。 お婆さんは、蝋燭の箱を出して女に見せました。その時、お婆さんはびっくりしました。女の長い黒い頭髪がびっしょりと水に濡れて月の光に輝いていたからであります。女は箱の・・・ 小川未明 「赤い蝋燭と人魚」
・・・今度は、だいぶ儲かるぞ。」九 青い大麦や、小麦や、裸麦が、村一面にすく/\とのびていた。帰来した燕は、その麦の上を、青葉に腹をすらんばかりに低く飛び交うた。 測量をする技師の一と組は、巻尺と、赤と白のペンキを交互に塗った・・・ 黒島伝治 「浮動する地価」
・・・彼の心持には金そのものが儲かるという世俗な利慾の跡などは微塵もなく、さあこれで買って遣るぞ! という明るい濃やかな勢こんだ生活の嬉しさがキラキラ燦き渡っているのだ。金がただの金というだけでない、彼のその女のひとに対する愛が金までを一種独特な・・・ 宮本百合子 「百銭」
・・・十五年も辛抱したなら、暖簾が分けてもらえるし、そうすりゃあそこだから直ぐに金も儲かるし。」 そう父親がいうのに母親はこう言った。「大阪は水が悪いというから駄目駄目。幾らお金を儲けても、早く死んだら何もならない。」「百姓をさせば好・・・ 横光利一 「笑われた子」
出典:青空文庫