・・・「あレあなたは先日何と云いました。人が何と云ったッてよいから遊びに来いと云いはしませんか。私はもう人に笑われてもかまいませんの」 困った事になった。二人の関係が密接するほど、人目を恐れてくる。人目を恐れる様になっては、もはや罪悪を犯・・・ 伊藤左千夫 「野菊の墓」
・・・言文一致デコノ手紙ヲシタタメテ差上ゲマス、今ニ三輪田君ノ梅見ニ誘ウ文、高津君ノ悔ミノ文ナドヲ凌駕スルコトト思召シ下サイ久シクオ目ニカカリマセヌガ、コレハアナタニバカリデナク、ドナタニモ同ジコトデ、先日チョット露伴君ヲタズネマシタノサエ二・・・ 内田魯庵 「斎藤緑雨」
・・・そこで私が先日東京へ出ましたときに、先生が「ドウです内村君、あなたは『基督教青年』をドウお考えなさいますか」と問われたから、私は真面目にまた明白に答えた。「失礼ながら『基督教青年』は私のところへきますと私はすぐそれを厠へ持っていって置いてき・・・ 内村鑑三 「後世への最大遺物」
・・・「先日おいでになった時、大層御尊信なすっておいでの様子で、お話になった、あのイエス・クリストのお名に掛けて、お願致します。どうぞ二度とお尋下さいますな。わたくしの申す事を御信用下さい。わたくしの考ではもしイエスがまだ生きておいでなされた・・・ 著:オイレンベルクヘルベルト 訳:森鴎外 「女の決闘」
・・・ 数日後のこと、若者は、雇われ口を探しながら歩いていますと、先日の汚らしいふうをした子供が、職人体の男にいじめられているのを見ました。「おまえは、どこから、この町へなどやってきたのだ。このごろは町にろくなことがない。火事があったり、・・・ 小川未明 「あほう鳥の鳴く日」
・・・ ある日、光治は森の奥にある大きな池のほとりへいって笛を吹こうと思ってきかかりますと、先日の少年がまた池のほとりで絵を描いていました。少年は光治を見ると、やはり懐かしそうに微笑みました。光治も打ち解けて少年のそばに寄って絵を見ますと、青・・・ 小川未明 「どこで笛吹く」
・・・ 読者や批評家や聴衆というものは甘いものであって、先日私はある文芸講演会でアラビヤ語について話をし、私がいま読売新聞に書いている小説に出て来る「キャッキャッ」という言葉は実はアラビヤ語であって、一人寂しく寝るという意味を表現する言葉であ・・・ 織田作之助 「可能性の文学」
・・・その後私は彼の姿を見なかったが、先日、それは戦争がすんでからまだ四五日たっていない日のことであった。私は市電に乗っている彼の姿を見た。彼は国民服を着て、何か不安な面持ちで週刊雑誌を読んでいた。そしてふと顔を上げて、私を見ると、あわてて視線を・・・ 織田作之助 「髪」
・・・てありました』などとまぜ返しを申し候ことなり、いよいよ母上はやっきとなりたもうて『お前はカラ旧癖だから困る』と答えられ候、『世は逆さまになりかけた』と祖父様大笑いいたされ候も無理ならぬ事にござ候 先日貞夫少々風邪の気ありし時、母上目を丸・・・ 国木田独歩 「初孫」
・・・ 御申越し以来一度も書面を出さなかったのは、富岡老人に一条を話すべき機会が無かったからである。 先日の御手紙には富岡先生と富岡氏との二個の人がこの老人の心中に戦かっておるとのお言葉が有った、実にその通りで拙者も左様思っていた、然るに・・・ 国木田独歩 「富岡先生」
出典:青空文庫