・・・「先月号あたりっから、まるで男の雑誌とかわりないようんなった……」 パラパラ頁をめくった。すると主任が、「一寸……」と手をさし出し、「働く婦人」四月号の赤線のところだけをよって貪るように目を通した。酸っぱいような口つきをし、・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・ きのうは、先月のときから見ると、やっとあなたらしいお顔つきでした。窓があいて、一寸のり出すようになさったとき、少しよくなっていらっしゃるのを感じました。それにしても、先月は苦しかったのですね。よっぽど立っているのが無理であったに違いな・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
先月、日比谷映画劇場で、国際観光局が海外宣伝映画試写会をもよおした。「富士山」と「日本の女性」という二つの作品で、其映画のはじまる前に、映画製作に直接関係した課の長にあたる人の挨拶があった。これまでの日本の映画音楽がよくな・・・ 宮本百合子 「実感への求め」
・・・ 今日も、先月中に御たのみした原稿紙や本や雑誌やらが、ふんだんに届いた。よく気をつけて、こちらでは得難い雑誌を送って下さる心持は、心からの感謝である。高い本を注文しても、見つかりそうもないものを御ねがいしても直ぐどうにかして送って下さる・・・ 宮本百合子 「樹蔭雑記」
・・・然し何と重厚に自然は季節を踏んで行くことだろう。先月二十七日に来た時、東公園と呼ばれる一帯の丘陵はまだ薄すり赤みを帯びた一面の茶色で、枯木まじりに一本、コブシが咲いていた。その白い花の色が遠目に立った。やがて桜が咲いて散り、石崖の横に立つ何・・・ 宮本百合子 「夏遠き山」
・・・石田が先月の通に勘定をしてみると、米がやっぱり六月と同じように多くいっている。今月は風炉敷包を持ち出す婆あさんはいなかったのである。石田は暫く考えてみたが、どうも春はお時婆あさんのような事をしそうにはない。そこで春を呼んで、米が少し余計にい・・・ 森鴎外 「鶏」
・・・もう十一月に入っているから、F君は先月青年団から貰った金で前払をしたのである。 とにかく逢って見ようと思って、私は二階へ上がった。立見の家では、奥の離座敷に上等の客を留めることにしている。次は母屋の中庭に向いた二階である。表通に向いた二・・・ 森鴎外 「二人の友」
出典:青空文庫