・・・とせんか、さらに光彩陸離たるべし。 問 しからばその理由は如何? 答 我ら河童はいかなる芸術にも河童を求むること痛切なればなり。 会長ペック氏はこの時にあたり、我ら十七名の会員にこは心霊学協会の臨時調査会にして合評会にあらざるを・・・ 芥川竜之介 「河童」
・・・彼の構想力、彼の性格解剖、彼のペエソス、――それは勿論彼の作品に、光彩を与えているのに相違ない。しかしわたしはそれらの背後に、もう一つ、――いや、それよりも遥かに意味の深い、興味のある特色を指摘したい。その特色とは何であるか? それは道徳的・・・ 芥川竜之介 「「菊池寛全集」の序」
・・・ご家蔵の諸宝もこの後は、一段と光彩を添えることでしょう」 しかし王氏はこの言葉を聞いても、やはり顔の憂色が、ますます深くなるばかりです。 その時もし廉州先生が、遅れ馳せにでも来なかったなら、我々はさらに気まずい思いをさせられたに違い・・・ 芥川竜之介 「秋山図」
・・・猿を先祖とすることはエホバの息吹きのかかった土、――アダムを先祖とすることよりも、光彩に富んだ信念ではない。しかも今人は悉こう云う信念に安んじている。 これは進化論ばかりではない。地球は円いと云うことさえ、ほんとうに知っているものは少数・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・ すると件の書生は、先生の序文で光彩を添えようというのじゃない、我輩の作は面白いから先生も小説が好きなら読んで見て、面白いと思ったら序文をお書きなさい、ツマラナイと思ったら竈の下へ燻べて下さいと、言終ると共に原稿一綴を投出してサッサと帰・・・ 内田魯庵 「露伴の出世咄」
・・・思いがけない石油を流したような光彩が、一面に浮いているのだ。おまえはそれを何だったと思う。それは何万匹とも数の知れない、薄羽かげろうの屍体だったのだ。隙間なく水の面を被っている、彼らのかさなりあった翅が、光にちぢれて油のような光彩を流してい・・・ 梶井基次郎 「桜の樹の下には」
・・・の花を吹きちぎり、ついでに柔らかい銀杏の若葉を吹きむしることがあるが、不連続線の狂風が雨を呼んで干からびたむせっぽい風が収まると共に、穏やかにしめやかな雨がおとずれて来ると花も若葉も急に蘇生したように光彩を増して、人間の頭の中までも一時に洗・・・ 寺田寅彦 「五月の唯物観」
・・・しかし大急ぎでこの瞬間の光彩をつかもうとしてもがいている私には、とてもそんな人たちにかまっているだけの余裕はなかった。それでも人々の言葉は時々耳にはいる。私が新しくブラシをおろすたびに、「煙だよ」とか「電柱だよ」とか一々説明してくれる人もあ・・・ 寺田寅彦 「写生紀行」
・・・活動写真の看板に「電光彩戯」と書いてある。四月三日 電車で愚園に行く。雨に湿った園内は人影まれで静かである。立ち木の枝に鴉の巣がところどころのっかっている。裏のほうでゴロゴロと板の上を何かころがすような音がしている。行って見るとイン・・・ 寺田寅彦 「旅日記から(明治四十二年)」
・・・紅葉の葉にはスペクトラムのあらゆる光彩が躍っている。しばらくじっと見ていたが、やっぱり天然の芸術は美しいと思った。この雀や紅葉の中へなら何時でも私の「私」を投げ込む事が出来る。「お前にはそれくらいものが丁度いいだろう」と云われればそれま・・・ 寺田寅彦 「帝展を見ざるの記」
出典:青空文庫