・・・父と私との実に充実した情愛を包む各瞬間をして益光彩あり透明不壊であるように生きましょう。私は父との永訣によって心に与えられた悲しみを貫く歓喜の響の複雑さ、美しさに就て、文字で書きつくされないものを感じて居ります。其は音楽です。パセティークな・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ゴーリキイをしてしかく人類的な光彩ある活動と、才能の満開とを可能ならしめた社会の文化的条件を想い、翻ってその招来のためにゴーリキイが作家的出発の当初から共に労して来た歴史の推進力との相互的関係に思い潜めて、それぞれの国における歴史と文化との・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・人間の持つ尊厳と光彩と天才とは彼等の上に燦然と輝きますでしょう。然し又他の一方には、其等の悠久な軛であるあらゆる「あるべきもの」の消極も存在して居ります。此の二方面の力の消長に、人は聰明でなければなりません。一面から申せば、彼女等の苦しむ事・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・によって後者の庶民的生活力には結びつかず、象徴派のマラルメやアンリ・ド・レニエなどと相識り、爾後四五年間はその温室の中にあって、間接に『法螺貝』、『半人獣』などという雑誌編輯に当り、グループの「最も光彩陸離たる聖職者の一人」となった。 ・・・ 宮本百合子 「ジイドとそのソヴェト旅行記」
・・・ けれども、此の稍々せんちめんたるな人が深夜、人気ない部屋に在って思う、こんな感動は、暫くすると、その感動を静かに見守る何物かによって、次第に其の光彩を失いかけて来た。 彼は父親のように自分を愛してくれる。 その静かな愛、鎮・・・ 宮本百合子 「樹蔭雑記」
・・・ それ故米国に於ける原始女性尊重の真意とでも云うべきものは、婦人を実力に於て認め、人格価値の上からは半歩も男子に譲るものではないと云う事実的な結論に加えて、彼等一流の光彩あるロマンティックな輝を添えたものであったのです。 斯様な社会・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
・・・ 殆どあらゆる種類の伝説と童話とが酵母となって、彼女の生活のどこの隅々にまでも、渾然と漲りわたっていた果もない夢幻的空想は、今ようようその気まぐれな精力と、奇怪な光彩とを失い、小さい宝杖を持ち宝冠を戴いた王様や女王様、箒に乗って・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
・・・ ゴーリキイが、あらゆる点で豊富なテムペラメントを持っていたにかかわらず、極めて特色的ではあるが長篇作家として十分技術上の光彩を発揮し得なかったことは、興味深い研究心を刺戟します。最も基本的な原因は、ゴーリキイの作風が、自分の雰囲気で濃・・・ 宮本百合子 「長篇作家としてのマクシム・ゴーリキイ」
・・・一つでも、その半片でも、人間が受けている、或は受けなければならない苦難を知ると、その一点を中心として四囲に発散している種々の光彩を見、感じる事が出来るように成るのではあるまいか、私の魂が粗野で、先頃までは鈍かった感触が此頃漸々有るべき発育を・・・ 宮本百合子 「追慕」
・・・ゆえに吾人の生活は心霊の光彩を帯びなければならぬ。生活の困難に嘆かず黄金に屈服せざるは死を恐るる人にできる事でない。しかしながら吾人は生きるために食物を要する、食物のためには働く義務がある。世人がすべて仙人となり隠者となってははなはだ迷惑だ・・・ 和辻哲郎 「霊的本能主義」
出典:青空文庫