・・・又私の処で夜おそくまで科学上の議論をしていた一人の若い科学者は、帰途晴れ切った冬の夜空に、探海燈の光輝のようなものが或は消え或は現われて美しい現象を呈したのを見た。彼は好奇心の余り、小樽港に碇泊している船について調べて見たが、一隻の軍艦もい・・・ 有島武郎 「北海道に就いての印象」
・・・ 過去に於ける文学は多くは片商売であって、今日依然光輝を垂れてる大傑作は大抵米塩の為め書いたものでないのは明かであるが、此の過去の事実を永遠に文人に強いて文学の労力に対しては相当の報賞を与うるを拒み、文人自らが『我は米塩の為め書かず』と・・・ 内田魯庵 「二十五年間の文人の社会的地位の進歩」
・・・とパウロは曰うた(哥林多、清き人は其の時に神を見ることが出来るのである、多分万物の造主なる霊の神を見るのではあるまい、其の栄の光輝その質の真像なる人なるキリストイエスを見るのであろう、而して彼を見る者は聖父を見るのであれば、心の清き者は天に・・・ 内村鑑三 「聖書の読方」
・・・そして、母と子の愛は、男と女の愛よりも更に尊く、自然であり、別の意味に於て光輝のあるもののように感ずる。 私は多くの不良少年の事実に就いては知らないが、自分の家に来た下女、又は知っている人間の例に就いて考えて見れば、母親の所謂しっかりし・・・ 小川未明 「愛に就ての問題」
・・・ この理由は、個人の研究や、創造はいかに貴くとも幾十年の間も、その光輝を失わぬものは少ないけれど、これに反し、集団の行動は、その動向を知るだけでも時代が分るためです。故にその時代を見ようと思えば、当時の雑誌こそ、何より有益な文献でなけれ・・・ 小川未明 「書を愛して書を持たず」
詩や、空想や、幻想を、冷笑する人々は、自分等の精神が、物質的文明に中毒したことに気付かない人達です。人間は、一度は光輝な世界を有していたことがあったのを憫れむべくも自ら知らない不明な輩です。 芸術は、ほんとうに現実に立脚するもので・・・ 小川未明 「『小さな草と太陽』序」
・・・この意味に於て、動物文学は、美と平和を愛する詩人によって、また真理に謙遜なる科学者によって、永遠無言の謎を解き、その光輝を発し、人類をして、反省せしむるに足るのであります。 小川未明 「天を怖れよ」
・・・はつらつたる感情や、勇気や、光輝というようなものは、創生の喜ぶに伴うものです。しからざるかぎり、たとえ、積極的には、間違ったことを伝えなくとも、そこに、喜びがなく、たゞあるものが、怠屈ばかりであったら、それは、何も与えなかったことになるばか・・・ 小川未明 「読むうちに思ったこと」
・・・ それは、その如何にも新らしい快よい光輝を放っている山本山正味百二十匁入りのブリキの鑵に、レッテルの貼られた後ろの方に、大きな凹みが二箇所というもの、出来ていたのであった。何物かへ強く打つけたか、何物かで強く打ったかとしか思われない、ひ・・・ 葛西善蔵 「子をつれて」
・・・骨董が重んぜられ、骨董蒐集が行われるお蔭で、世界の文明史が血肉を具し脈絡が知れるに至るのであり、今までの光輝がわが曹の頭上にかがやき、香気が我らの胸に逼って、そして今人をして古文明を味わわしめ、それからまた古人とは異なった文明を開拓させるに・・・ 幸田露伴 「骨董」
出典:青空文庫