・・・一撃に敵を打ち倒すことには何の痛痒も感じない代りに、知らず識らず友人を傷つけることには児女に似た恐怖を感ずるものである。 弱者とは友人を恐れぬ代りに、敵を恐れるものである。この故に又至る処に架空の敵ばかり発見するものである。 ・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・ 生活の革命……八人の児女を両肩に負うてる自分の生活の革命を考うる事となっては、胸中まず悲惨の気に閉塞されてしまう。 残余の財を取纏めて、一家の生命を筆硯に托そうかと考えて見た。汝は安心してその決行ができるかと問うて見る。自分の心は・・・ 伊藤左千夫 「水害雑録」
・・・晩春五月の頃麗都の児女豪奢を競ってロンシャンの賽馬に赴く時、驟雨濺来って紅囲粉陣更に一段の雑沓を来すさま、巧にゾラが小説ナナの篇中に写し出されたりと記憶す。 紐育にては稀に夕立ふることあり。盛夏の一夕われハドソン河上の緑蔭を歩みし時驟雨・・・ 永井荷風 「夕立」
・・・英国の教師夫婦を雇い、夫は男子を集めて英語を授け、婦人は児女をあずかりて、英語の外にかねてまた縫針の芸を教えり。外国の婦人は一人なれども、府下の婦人にて字を知り女工に長ずる者七、八名ありて、その教授を助けり。 この席に出でて英語を学び女・・・ 福沢諭吉 「京都学校の記」
・・・にっこりわらッて口のうち、「昨夜は太う軍のことに胸なやませていた体じゃに、さてもここぞまだ児女じゃ。今はかほどまでに熟睡して、さばれ、いざ呼び起そう」 忍藻の部屋の襖を明けて母ははッとおどろいた。承塵にあッた薙刀も、床にあッたくさりかた・・・ 山田美妙 「武蔵野」
出典:青空文庫