・・・町に面した住いは低く出来ていて、入口の左右に小さい店がある。入口から這入る所は狭いベトンの道になっていて、それが綺麗に掃除してある。奥の正面に引っ込んだ住いがある。別荘造りのような構えで、真ん中に広い階段があって、右の隅に寄せて勝手口の梯が・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
・・・海岸の入口に来てみますと水はひどく濁っていましたし、雨も少し降りそうでした。雲が大へんけわしかったのです。救助係に私は今日は少しのお礼をしようと思ってその支度もして来たのでしたがその人はいつもの処に見えませんでした。私たちはまっすぐにそのイ・・・ 宮沢賢治 「イギリス海岸」
・・・大通りから一寸入った左側で、硝子が四枚入口に立っている仕舞屋であった。土間からいきなり四畳、唐紙で区切られた六畳が、陽子の借りようという座敷であった。「まだ新しいな」「へえ、昨年新築致しましたんで、一夏お貸ししただけでございます。手・・・ 宮本百合子 「明るい海浜」
・・・ 人々がコーヒーを飲み了ったと思うと、憲兵の伍長が入り口に現われた。かれは問うた、『ここにブレオーテのアウシュコルンがいるかね。』 卓の一端に座っていたアウシュコルンは答えた、『わしはここにいるよ。』 そこで伍長はまた、・・・ 著:モーパッサン ギ・ド 訳:国木田独歩 「糸くず」
・・・ 閭がその視線をたどって、入口から一番遠い竈の前を見ると、そこに二人の僧のうずくまって火に当っているのが見えた。 一人は髪の二三寸伸びた頭を剥き出して、足には草履をはいている。今一人は木の皮で編んだ帽をかぶって、足には木履をはいてい・・・ 森鴎外 「寒山拾得」
・・・祷りの声が各戸の入口から聞えて来た。行人の喪章は到る処に見受けられた。しかし、ナポレオンは、まだ密かにロシアを遠征する機会を狙ってやめなかった。この蓋世不抜の一代の英気は、またナポレオンの腹の田虫をいつまでも癒す暇を与えなかった。そうして彼・・・ 横光利一 「ナポレオンと田虫」
・・・浜田耕作氏によると、大阪城大手門入り口の大石の一は横三十五尺七寸高さ十七尺五寸に達し、その他これに伯仲するものが少なくない。かりにこの石の厚さを八尺とし、一立方尺の石の重さを十九貫四百匁とすれば、この石の重さは約十万貫、三七五ト・・・ 和辻哲郎 「城」
出典:青空文庫