・・・変だと思ってよく調べてみると、星の世界には悪い黴菌がいないために黴菌に対する抗毒素を持合わせない彼の星の住民は、地球上の数々の黴菌に会って一たまりもなく全滅した。こういう架空小説を書いた人がある。 あまり理想的に完全なマスクをかけて歩い・・・ 寺田寅彦 「変った話」
・・・ 静岡へ着いて見ると、全滅したはずの市街は一見したところ何事もなかったように見える。停車場前の百貨店の食堂の窓から駿河湾の眺望と涼風を享楽しながら食事をしている市民達の顔にも非常時らしい緊張は見られなかった。屋上から見渡すと、なるほど所・・・ 寺田寅彦 「静岡地震被害見学記」
・・・ また一例を挙げると、三月十六日パレスタインで強風が砂塵を立てているに乗じてトルコの駱駝隊を襲撃し全滅させたという記事もある。その他各戦線にわたって天候のために利を得また損害を受けた実例は枚挙に暇ないほどある。ことに飛行隊の活動などは著・・・ 寺田寅彦 「戦争と気象学」
・・・があるという事は、すべての人間の構成した学説に共通なほとんど本質的な事であって、しかもそれがあるために直ちにその学説が全滅するというような簡単なものとは限らないし、むしろそういう点を認める事がその学説の補填に対する階段と見なすべき場合の多い・・・ 寺田寅彦 「相対性原理側面観」
・・・世界の人間が全滅しても天然の事象はそのままに存在すると仮定する。これがすべての物理的科学の基礎となる第一の出発点であるからである。この意味ですべての科学者は幼稚な実在派である。科学者でも外界の実在を疑おうと思えば疑われぬ事はないが多くの物理・・・ 寺田寅彦 「物理学と感覚」
・・・わたくしはただ平和が得たいばかりに、自己の個人性を全滅させました。それが大失錯で、夫の要求は次第に大きくなるばかりでございます。今日のところでは、わたくしは主人に屈従している賄方のようなものでございます。そう云う身の上は余り幸福ではございま・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
・・・砲弾にて破損せる古き穀倉の内部、辛くも全滅を免かれしバナナン軍団、マルトン原の臨時幕営。右手より曹長先頭にて兵士一、二、三、四、五、登場、一列四壁に沿いて行進。曹長「一時半なのにどうしたのだろう。バナナン大将・・・ 宮沢賢治 「饑餓陣営」
・・・「今夜は、毒蛾も全滅だな。」誰か向うで云いました。「さあどうかねえ。」私のとこのアーティストは、私の頭に、金口の瓶から香水をかけながら答えました。 それからアーティストは、私の顔をも一度よく拭って、それから戸口の方をふり向いて、・・・ 宮沢賢治 「ポラーノの広場」
・・・台湾旅客機エンボイ機が台北の北方七星山麓で遭難して八名の乗客操縦者全滅したのは三月十二日ごろのことであった。「日航」は当日の暴風と濃霧によって進路測定に誤差が生じたことを遭難の原因として詳細に地理的に報告した。そして「民間航空発展の貴い人柱・・・ 宮本百合子 「市民の生活と科学」
・・・ ○本所相生署は全滅。六日夜十一時頃、基ちゃんが門で張番をして居ると相生署の生きのこりの巡査が来、被服廠跡の三千の焼死体のとりかたづけのために、三十六時間勤務十二時間休息、一日に一つの玄米の握り飯、で働せられて居る由。いやでもそれをしな・・・ 宮本百合子 「大正十二年九月一日よりの東京・横浜間大震火災についての記録」
出典:青空文庫