・・・ もし、まだ片のつかないものがあるとすれば、それは一党四十七人に対する、公儀の御沙汰だけである。が、その御沙汰があるのも、いずれ遠い事ではないのに違いない。そうだ。すべては行く処へ行きついた。それも単に、復讐の挙が成就したと云うばかりで・・・ 芥川竜之介 「或日の大石内蔵助」
・・・鷹には公儀より御拝領の富士司の大逸物を始め、大鷹二基、はやぶさ二基をたずさえさせ給う。富士司の御鷹匠は相本喜左衛門と云うものなりしが、其日は上様御自身に富士司を合さんとし給うに、雨上りの畦道のことなれば、思わず御足もとの狂いしとたん、御鷹は・・・ 芥川竜之介 「三右衛門の罪」
・・・さて牢屋敷から棧橋まで連れて来る間、この痩肉の、色の青白い喜助の様子を見るに、いかにも神妙に、いかにもおとなしく、自分をば公儀の役人として敬って、何事につけても逆らわぬようにしている。しかもそれが、罪人の間に往々見受けるような、温順を装って・・・ 森鴎外 「高瀬舟」
出典:青空文庫